※平成13年7月30日、夏季特別フォーラムにて提案
それでは、これから教育委員会学校支援課と研修管理課合同の、プロジェクト研究「特色ある学校づくり」のメンバーの代表として、「特色ある学校づくり」について基調提案を行います。
この基調提案では、まず初めに、「特色ある学校づくり」が必要な理由を確認し、それから「特色ある学校づくり」を実施するに当たって大切だと考えることを述べていきます。
さて、「特色ある学校づくり」というのは、ご存じのように、小学校・中学校・高等学校を通じた、今回の教育課程の改訂の4つの基本方針のうちの一つです。その方針には
「各学校が創意工夫を生かし特色ある教育、特色ある学校づくりを進めること」
と書かれています。
なぜ、今このように「特色ある学校づくり」が必要なのでしょうか。その理由を、二つの面から考えました。
理由の一つは、「特色ある学校づくり」によって、地域や学校が必要とする教育を今まで以上にできるようにするため、ということです。
今回の教育課程の改訂は、その基準の一層の大綱化、運用の弾力化を図るという大きな流れにのっとってなされました。各学校の裁量に任せる部分を大きくして、学校が自主性を発揮し創意工夫ある教育を実践できるようにしています。横並びで、どこの地域、どの学校も同じような教育を行うのでなく、その地域やその学校の実態にあった教育を行うことができるようにしたのです。それは最終的には、その学校の児童生徒の一人一人の個性を生かすこと、そして学校が児童生徒にとって魅力ある場所となることにつながっていきます。このことは、後に述べる学校の具体例で理解していただきたいと思います。
二つ目の理由は、「特色ある学校づくり」によって、教師そして学校を今まで以上に活性化するため、と考えます。「特色ある学校づくり」を行おうとすれば、まず教師が自分の学校・生徒の特徴をよく見つめ、どこに工夫をこらせばよいか考える必要が生じてきます。決められたことをそのまま行うこと、あるいは隣の学校と同じことを行うことは楽なことです。しかし、特色ある学校づくりを行うことは、気楽にはいきません。一人ひとりの教師がマンネリから脱して、知恵を出し合い、創意工夫をこらさなくてはなりません。そのことが学校教育の活性化につながると考えられます。
(1) 「特色ある学校づくり」は、児童生徒の実態や、これから社会に必要な力を踏まえて、目標とする児童生徒像を明確にすることから!
さて、「特色ある学校づくり」を行うに当たって大切なことは何でしょうか。まず第一に大切なことは、それぞれの学校が児童生徒の実態や、これからの社会に必要な力を踏まえて、目標とする児童生徒像を明確にすることです。 「特色ある学校づくり」についての総合教育センタープロジェクトチームが県内の学校の実情を検討したとき、多くの学校では目標とする児童生徒像が明確になっていましたが、学校によっては、特色ある活動はなされているものの、それがどのような児童生徒の育成につながるのか今一つ明確でないというようなところがありました。目指す児童生徒像が明確でないために、「特色のための特色づくり」になっているのです。
また逆に、学校の教育目標などが長い間見直されず、実態に合わなくなっていたため、思い切ってそれを見直した学校もあります。新しい視点から、「特色ある学校づくり」を始めたわけです。
さて、実態を踏まえた目標の設定ということでは、本日の実践発表校の中に、こんな高等学校の例があります。この高等学校はいわゆる「進学校」ですが、近ごろ生徒が変わってきていることに気が付きました。今までの座学中心の授業に不適応を示す生徒や、切実な必然性を感じられない勉強には耐えられない生徒が増加してきたのです。一方で、学校祭での積極性や創造性の発揮というよい面は残っています。その実態を踏まえて、「自ら活(い)き活(い)きと学ぶ生徒」「主体的に進路目標を定め、実現をはかる生徒」という目標を定めました。そして、独自の「総合学習」の実践を積み重ね、成果を上げてきました。
また、これからの社会に必要な力を踏まえた目標設定ということでは、本日実践発表を行うある小学校が例としてあげられます。この小学校では、これからの社会を生きる子供たちに求められるものは、主体的・創造的に生きていく力であると考え、「自ら学び豊かに表現できる子」を目標の一つに設定しました。そして、音楽科や国語科を中心に、自己選択・自己表現を大切にした実践を長年積み重ね、「特色ある学校づくり」を実践し、成果をあげてきました。
このように、地域や学校の実態を踏まえ自校の課題を明確にすることにより、「特色ある学校づくり」の糸口が見えてくるはずです。
ところで、目標とする児童生徒像を明確にするということは、学校の教職員の意思統一を図るという面からも大切なことです。「特色ある学校づくり」がうまくいっているところは、職員の意思統一もうまくいっています。 (2) 「特色ある学校づくり」のためには、地道な実践の継続を!
「特色ある学校づくり」のために二つ目に大切なこととして、地道な実践を継続することがあげられます。 「特色ある学校づくり」は、最終的には児童生徒の基礎学力も含めた「生きる力」をはぐくむことにつながることが大切です。一過性のイベントであってはならないのです。
このことについて、私たちが実践発表の協力をお願いした折、ある高校の校長先生は、こんなふうに述べられました。
「『特色ある学校づくり』というと『特色』すなわち『花』の部分だけを意識しやすいが、『花』を支える『根』の部分の重要性を考えてほしい。根というものは、例え ば根毛のある植物を考えてみると、驚くほどびっしりと張りめぐらされている。学校 運営の『根』に当たる部分を大切にしてほしい。また、花は365日毎日水をやって 咲くものだということも忘れないでほしい。」 この言葉は、大変印象に残るものでした。「特色ある学校づくり」というのは地道な実践を積み重ねた結果、可能になるのだということでしょう。小学校なら6年間、中学校・高等学校なら3年間の長期的なビジョンに立って、地道な実践を根気強く積み重ねることが必要なのです。 実際、ある実践発表校は、非常に長期的なビジョンのもと地道な実践を積み重ねて成果をあげています。この中学校は、自分の学校を核として保育園・幼稚園・小学校にも働きかけ、保・幼・小・中が連携して教育に当たることにしました。保育園から中学校までの約12年をかけ、各発達段階にふさわしい自己決定の場を設けたり、中学生が小学校に行き児童に教える場面を作ったりして、「主体的に学ぶ姿」を育てていこうとしています。また、ある小学校は、6年間を見通した「総合的な学習の時間」を実施するともに、基礎基本定着のための朝15分間の国語・算数の学習を、普段の授業以外にも週1回ずつ継続的に行って、「一人まなびのできる子」を育てようとしています。
「特色ある学校づくり」というものは、最終的に子どもたちの「生きる力」の育成につながるものですから、すぐ成果が出るというものではありません。焦らず、あわてず、地道な実践を積み重ねていきたいものです。 (3) 「特色ある学校づくり」に関して積極的な情報発信を!
三つ目に大切なこととして、「『特色ある学校づくり』についての積極的な情報発信」ということをあげます。積極的な情報発信という言葉には、二つの意味を込めています。 一つは、説明責任を果たそうということです。「特色ある学校づくり」のために学校の裁量に任される部分が増えるということは、逆に保護者や地域に対する学校の説明責任が増えるということです。自分の学校がどのような創意工夫をして、どんな成果をあげ、どんな課題があるのかを明らかにするというのは、ある意味では学校にとっては厳しいことでしょう。しかし、それをネガティブにとらえず、自信をもって自分の学校の特色をアピールする機会だととらえたいものです。説明責任を果たし、情報を発信することによって、保護者や地域の方も納得して協力されるようになるでしょう。 もう一つは、積極的に広報媒体を使ったり、学校外の人や機関と連携し共に活動することによって自校の特色をアピールしたいということです。場合によっては、まず児童生徒に、学校がどのような特色をもっているのか、あるいはもとうとしているのか知らせ、児童生徒とともに「特色ある学校づくり」を進めていくことが大切でしょう。 さて、この広報などを通じて自校の特色をアピールしていくということは、特に、子どもたちによって選ばれる立場である高等学校には必須のことです。 例えば、中学校への広報活動を大切にしているある高等学校の例をお話ししましょう。この高等学校は、中学生に対する学校見学や一日入学の機会の設定、中学校の先生対象の体験実習、職員の中学訪問、中学校に向けた種々のパンフレット作成など、多様な中学校への働きかけによって、中学校側の理解が深まり、入学希望者が増加してきました。
中でも、中学生に対して高校生が直接説明する学校説明会が、ある中学校の先生には大変印象に残りました。その説明会の折、説明に出てきたのは、中学校ではあまり目立たず、人前で話すことが苦手だった教え子でした。ところが、その生徒が、自分の携わっているプロジェクト研究のことを、スライドなどを使って、堂々と自信をもって多くの中学生に説明したのです。中学校で担任していた先生は目を見張りました。この説明会は、その高等学校の教育の評価を高めるとともに、聞いていた中学生にもあこがれの気持ちを抱かせ、広報として、大変効果的だったわけです。
このように、高等学校の生徒が、生き生きと学習したり活動したりする多様な姿を、広報媒体を通じてアピールし、それぞれの学校の意義を広く知ってもらうことは、非常に大切なことだと考えます。高等学校の側から、積極的に新しい高等学校の姿をアピールすることが、これからもっと大切になってくるでしょう。 以上、「特色ある学校づくり」が必要な理由と、「特色ある学校づくり」をするに当たって大切だと考えられることを、基調提案としてお話ししました。
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