生物領域における実践
 
大垣北高等学校  大野 広行
 
1 はじめに
 このシンポジウムでのキーワードは2つある。1つは中央教育審議会の中間報告で出された「生きる力」であり、もう一つは理科における生きる力として総合教育センターから出された「問題解決能力」である。
 この2つの力を「理科」という教科の中で、または「授業」という時間の中でどう培っていくかを研究してきたが、この3年間は本当に試行錯誤の連続であった。多くの実践研究がされ、様々な考えが出されたが、生物班では考えを1つに絞ることはしなかった。それは多様な観点からのアプローチがある方が「生きる力」や「問題解決能力」を培っていけると考えたからでる。その様々なアプローチをシンポジウムで紹介することにした。
 
2 平成10年度の研究
 1年目に「生きる力を培う理科指導の在り方を踏まえて、一人一人の個性を生かした探究的な学習過程についての研究」というテーマが示され、実践研究を行った。
 その内容は次のように多種多様なものであった。
★「生きる力」を培うということについて
・科学的な見方・考え方を養う。
・たくましく生きていく生命への共感。
・人間と自然との関係性について考えさせる。
・自分で問題を解決していく力を培う。
・自分たちの生きている地球の環境について考えてみる。
★方法
・学年通信の利用。  ・実験観察方法の改良。  ・アンケートを元にした授業。
・小論文の導入。   ・LHRの活用。     ・評価方法について。
 これらの報告について討論した結果、身近な情報の提供や問題提起によって生徒が生き生きと活動していく姿に注目が集まった。そこで授業・実験・LHR・課外活動などで様々な形の「なげかけ(アプローチ)」をして生徒の「生きる力」を培っていくことに焦点を当てた研究を今後行っていくことにした。
 
3 平成11年度の研究
 昨年の研究メンバー9人のうち5名が残り、新たに2名を加わえて7名のメンバーで研究を引き継いだ。
 研究テーマは昨年と同じ「生きる力を培う理科指導の在り方〜一人一人の個性を生かした探究的な学習過程の創造〜」であった。
 研究内容は理科における「生きる力」を問題解決能力と定め、問題解決能力を育成するための授業実践(計画・実践・評価法)で、具体的には単元内の毎回の授業構成を問題解決能力育成の立場から検討し実践研究することになった。
 ここで昨年からのメンバーが戸惑った。その要点をあげると次のようになる。
@生物という教科の中での「生きる力」に対する認識を1つに絞ってしまうのではなく様々な考えがあっていいという考えが、「問題解決能力」に集約されてしまったこと。
A「なげかけ(アプローチ)」という形式と毎回の授業構成との結びつきがはっきりしなかったこと。
B課外活動・LHRなど授業以外での実践研究も考慮に入れていたのが、授業に絞られたこと。
C「問題解決能力」とは何かということ。
 そこで昨年の継続と考えるのではなく、新たに問題解決能力育成のための実践研究ということで今年度の研究を始めた。
 2回目の研修での授業実践報告の結果、「問題解決能力」についても多様な考えがあることが分かった。その内容は「問題を見いだす観察力」「自然現象の数学的な分析の体験」「興味・関心を深め、自主的に考えさせること」「自ら問題を解決していくこと。」「文章作成能力」「探究心の育成」などである。
 扱う単元や学校の状況によって目標とする「問題解決能力」が違うのは当然のことなので、今後も考えを1つ絞ることなく多様な観点からの研究を行っていくことにした。
 
4 本年度の研究
 昨年度と同様のテーマで研究を行うことになった。昨年の研究から「問題解決能力」とは非常に多岐にわたっており、また単元によっても異なるため各自が様々な実践を行っていくという方向で研究を進めた。
 各自の実践報告を聞いて改めて問題解決能力について考えてみた。
 問題解決能力育成のためにはそこに解決すべき問題が存在する必要がある。その問題を解決するためにはその問題を見いだす、つまり発見する必要がある。そして問題を見つけるには当然その事柄について興味関心がなければならない。生物のことに全く関心が無い生徒が生物という学問において何か問題を見いだすだろうか?「理科離れ」ということも言われているが、まずは「生物」に興味関心を持ってもらうことが大切だと思う。そして興味関心が沸いて、その事柄を集中して観察していけば「疑問」を持つことが当たり前になっていき、「疑問」を自分で考えていこうとすれば様々な「問題解決」のための能力が育っていくのではないだろうか。
 生物班で報告された実践内容は様々であったが、どの報告もこの問題解決能力育成のために「どうしたら生徒が興味関心を持ってくれるか。」「授業を受けていて疑問を生じるか。」「自ら考えてみようと思うか。」という観点に立ち行われた実践であった。
 
5 おわりに
 生物班では「生きる力」と「問題解決能力」の間で少し違和感があったように感じられる。
 生物という教科の中で「生きる力」を培うということはどんなことだろうか。 
 それは自分の体についての知識を知ることで「生命」としての「人間」を考えることだったり、自然の営みや生物の生きざまに触れて感動することによって生命に対する尊厳を感じることであったりするのことなのではないかと思う。
 今回は理科における「生きる力」を問題解決能力として、その育成について研究されたが、問題解決能力の育成だけでなく、もっと広く生物という学問全体から見渡しての「生きる力」の育成が研究されていかなければいけないと感じる。それは時には生物や自然に触れ合うことであったり、自分たちの置かれた自然環境について考えたりすることかもしれない。
 今一度、生物にとっての「生きる力」とは何なのか、人間にとっての「生きる力」とは何なのか、現在目の前にいる生徒にとっての「生きる力」とは何なのかを考え、生物の授業や実験、その他の活動を通してできることは何か考えていく必要性を感じる。