化学領域における実践
大垣南高等学校 伊藤 一則
平成10年〜平成12年の3年間にわたるこの講座の経過を紹介する。
1 平成10年度
3年後のシンポジウムに研究報告をすることを前提にスタートしたこの講座は「6130理科実験講座」という名称であったが、最初に始めたことは中教審一次答申の読み合わせであった。そしてその中に出てくる「生きる力」を理科の授業の中で培うため、新しい理科指導の方法を考えるということがこの講座の目的であることを知った。その点を理解するために、初日は教育委員会学校指導課の佐々木先生の講話、第2日目はオハイオ州立大学V.J.Mayer氏及び国立教育研究所の下野先生その他のお話を聴くことができた。
第1日目の最後に、次回までの課題として、「中教審の一次答申、中間報告を検討し、自身の学校の現状に合わせて考え、新しい理科指導の在り方についてまとめる。」という宿題を戴き、第2日目には講座のメンバーがそれぞれレポートを持ち寄った。具体的な授業案や教材を記したレポートもあり、また、新しい理科指導の在り方についていろいろな方面からのアプローチを掲げたレポートもありという状況であったが、国立教育研究所の下野先生より懇切丁寧な指導を戴くことができたのは望外であった。そして、今回の報告や情報交換を基に、次回は授業実践をしてレポートにまとめることとなった。
第3日目は各研究員の実践報告を行ったが、それぞれのレポートのタイトルは別頁に記載されているので省略する。各研究員の立場はさまざまであるので、理数科の生徒を対象とした実践、部活動指導における実践、教育が困難な工業高校における悪戦苦闘の実践など、そのアプローチは多岐に渡っていたが、探究的な要素が盛り込まれていたり、生徒の個性に応じた指導がなされているものなどがあり、なんとか1年目としての成果が形に表せたという感想である。しかしながら工夫をすべき点は多々あり、来年度もう一度改良したり、対象生徒を変えて実践してみたいという意見も出された。
2 平成11年度
2年目は「6430 高等学校・科学教育」という講座名に変わり、残念ながら松浦・遠藤のお二人が諸事情により抜けられたが、新たに伊藤仁(可児高)、市岡(恵那北高)の二名のメンバーを迎えてスタートした。
第1日目は、本講座における研究主題の説明がなされた。1年目の成果を踏まえて、研究主題は「生きる力を培う理科指導の在り方」−一人一人の個性を生かした探究的な学習過程の創造−であり、理科における「生きる力」を問題解決能力と定め、その能力を育成するために、一単元全体にわたっての指導構成を考え実践するという指針が提案された。それに基づき参加者は第2、第3日目に実践報告をし、討議することとなった。分科会は1年目の時と同様、地学と合同で行うこととなった。
第2日目は2名(篠田・伊藤一)の実践報告と、2名(市岡・西谷)のこれからの実践計画の提案を行った。実践報告では「単元案が書きづらかった。考えようとしない生徒がいる。質疑応答型の授業は大勢の生徒と限りある授業の中ではなかなか難しい。」という意見や、「思っていたよりも生徒はよく挙手をした。従来の講義形式では得られない経験ができた。」などの感想があったが、その後の討議では「自発的でない生徒もあたたかく見守り、段階に応じて繰り返し指導していくことの必要性。そして個に応じた指導を目指すこと。精選すべきところは精選し、ここは考えさせたいというポイントになるべきところで教師から仕掛ける。この研究は教師生命をかけて今後の教育をどのように変え、どのように教師が変わるべきかを成果としたい。」等の意見が出た。
第3日目は4名の実践報告を行った。今回は地学の報告が多く、ユニークな教材が多かった。その中で、生徒に討論をさせたり地震の被害予想をさせたり、時には生徒が作業するのをじっと見守るというさまざまな方法で生徒に考えさせていることが印象的であった。化学では市岡先生が有機分野における実践報告をされたが、問題解決能力を養うという点から見ると指導しにくい分野でもあり、今後の工夫が問われるという意見も出された。
3 平成12年度
三年目に入ったこの講座は教育センターの大改革により、メンバーのみならず指導の先生も入れ替わり、講座名も「413 科学教育C」となったが、第1日目は総合教育センターの花村先生の「地域環境を生かした理科指導の在り方」というプレゼンテーションを見させていただき、さらに本年度も昨年までの研究を深化し、完成させていくよう説明があった。分科会においては今後の2回の講座で各自が実践報告を行い、12月には資料を作成し、1月のシンポジウムで発表ということを確認した。
第2日目は、今年メンバーに加わった園部、臼田両先生の実践計画の説明、及び伊藤一の実践報告を行った。園部先生は華陽フロンティア高校というユニークな学校において、理科の原点に戻って定時制の生徒に観察の仕方やレポートの書き方を指導しながら問題解決能力を育もうと計画され、新鮮な教材(酢酸ナトリウム三水和物の加熱による変化)も含まれ、興味をそそるものであった。臼田先生は「イオン化傾向と電池」についての実践計画を報告されたが、問題意識の持たせ方や解決への導き方など、今後解決すべき問題点が話し合われた。伊藤一は昨年も実施した酸・塩基の指導について深化させ、スライドをプリント資料として報告したが、プレゼンテーションの方法についても質疑を交わした。
第3日目は今年から入られた先生も含めてすべてのメンバーが実践報告を行った。正直な感想としてはまだまだ未完成の部分もあるように思うのだが、特に継続してこの講座に取り組んでこられた先生の報告には、実践の結果の中に今までの授業とは異なるものが得られているという印象を受けた。それが何なのかということは、一口で言い表しにくいことではあるが、あえて私なりに表現するならば「主体的に考える授業」、「双方向の授業」ということであろうか。そしてそのことから生み出されるものは多々あるということが今回の結論であると考えている。このシンポジウムにおける発表だけではその点を理解していただけるかどうかは極めて心許ない気がするが、多くの先生方が私たちの発表を基に、それぞれ今後の理科指導の在り方を考えていただければ幸いである。
4 終わりに
この3年の間、指導に携わる教育センターも大規模な変革が行われ、化学を指導していただいた当センターの先生も1年交代で代わっていくという状況の中で、常に変わらずに見据えていたのは、平成15年度より実施される新学習指導要領の骨子となる「生きる力」をどのように育んでいくか、ということであり、かつ、授業時数が減少していく中で今までとは異なる指導法をどのように取り入れていくかというテーマであったと思う。
3年間の長期に渡る研究といっても、私たちは今、目の前にいる生徒を相手に、全力を尽くして指導をし、その合間を縫って研究を続けてきたということであり、集まって議論検討した回数もそれほど多いわけではない。その結果として私たちが今ここに報告できることは、現状の指導とはさほど変わっているものではない。レポートを一見していただくならば、何も大きな成果はないのではないか、と思われるかもしれない。
しかし私たちは教師になって以来、長年培ってきた指導方法を全面的に変革してしまうことは到底不可能なことであり、また、従来の指導方法がすべて間違っていたとも思ってはいない。したがって、私たちの得たものは、現状に比較すればほんのわずかな変革であるが、そのわずかな変革が今までには経験できなかったものであり、一度経験すれば新指導要領への対策も見えてくるものと思っている。