地学領域における実践
 
吉城高等学校  寺門隆治
 
1 はじめに
 「生きる力を培う理科指導の在り方」として、授業実践の中で「生きる力」をどのようにとらえ、実践していくのかが大変難しい課題であった。
 中央教育審議会第一次答申にも述べられ、新学習指導要領の改訂の方針で示されている、体験的な内容をとおしての「問題解決能力の育成」が理科における「生きる力を培う」ことにつながるとして実践研究を行ってきた。3年間の地学領域における実践を振り返える。
 
2 平成10年度の研究
 初年度ということもあり、「生きる力」を地学領域においてどのように捉えていけばよいのか、皆目見当がつかない状態であった。理科全体のテーマとして「生きる力」を「問題解決能力の育成」と解釈して実践に取り組みはじめたが、地学領域で「問題解決能力の育成」を行うということはどのようなことであるのかを模索、検討するだけに1年要したと言っても過言ではない。とにかく、自分なりに考えた問題解決能力育成の実践を試みることとなった。
 平成10年度の地学の研究員は、篠田憲明(岐山高校)、寺門隆治(吉城高校)の2名であった。
 篠田は、「温暖化による植物群系の変化」をテーマとして実践研究を行った。
この研究は、「暖かさの指数(WI)」を求めることにより、地球温暖化が生じた場合の森林分布の変化を調べ、それにより環境にどのような変化が現れるかなどを考察させたりするものであった。また、地球温暖化阻止のために取り組まなければならない課題についても考察させる内容であった。
 与えられた課題を、日本各地の気温データを用いて適切に解決していくという過程は、まさに問題解決能力育成につながるものであり、今回のテーマに沿う内容であった。
 寺門は、「自然放射線の測定を通して放射線の理解を深める」というテーマで実践研究を行った。
 この研究では、身の回りにも放射線が存在することを簡単な測定装置で示し理解させ、そこから生徒に様々な実験実習を展開させるという内容であった。放射線を身近なものと捉えさせる点では興味ある研究ではあったが、生徒が自ら問題点を発見し、自ら解決していく問題解決能力育成という観点からは、ややはずれる研究であった。
 このように地学においては、「問題解決能力の育成」を十分捉えきれないまま試行錯誤した1年であった。
 
3 平成11年度の研究
 この年度の地学の研究員は、日下部真男(斐太高校)、西谷徹(岐山高校)、寺門隆治(吉城高校)の3名であった。
 日下部は、「地震発生のしくみと被害」というテーマで実践を行った。
 これは、生徒の地震に対する理解を深めることを目的とし、断層と地形との関連を考察させることや、コンピュータソフトを用いて地震の被害を予想させることを行った実践である。用いたソフトは、消防科学総合センターの「簡易型地震被害想定システム」で、いろいろな地震条件を入力することで、被害状況が想定できるというものである。
 この実習を通して、生徒は「ある事象(この場合地震)」に対してどのようにアプローチして分析すべきか。また分析する場合には、いろいろな方向から見る必要があり、視点を変えながら対応していかなければならないということを学習したと考えられ、「問題解決能力の育成」が達成されたのではないかと分析している。
 西谷は、「気象分野の導入における洞察力の育成」という内容で実践を行った。
 この研究は、気温という身近な概念をテーマに、実際の気象データからその特徴を理論的にそして自主的に考察していくことを「問題解決能力の育成」と位置づけ実践したものであった。生徒は、気温の緯度や高度との関係をコンピュータを使用し、適切に分析、考察し問題解決していて、まさに今回のシンポジウムのテーマに沿うものであった。
 寺門は、「身近に発生した豪雨災害をテーマとして」と題し、昨年飛騨地方を中心に発生した豪雨災害を教材として取りあげ実践研究を行った。
 この実践では、豪雨災害を直接的間接的に受けた実体験をもとに、そこからどんなことが研究課題として挙げられ自分たちで解決できるかを主なテーマとして実践を行ったものである。実体験であるが故に、自分たちでどんなことが問題解決できるかということに真面目に取り組めた実践であった。
 2年目に入り、ようやく研究テーマが理解でき、各自それに沿った実践に取り組めるようになってきた。
 
4 本年度の研究
 本年度の研究員は、西谷徹(岐山高校)、寺門隆治(吉城高校)の2名であった。
 両名とも昨年度の研究テーマをそのまま継続し実践を行った。
 西谷は、生徒同士の意見交換や討論を重視した実践を試みた。当然のことであるが、生徒にはこれまでそのような経験が少なく、時間がかかってしまうということはあったが、討論を重ねるうちにやがて真理に迫ることができたという。私たちはカリキュラムをこなすことに重点を置き、ついつい答えを先に用意する講義形式の授業に陥りがちであるが、
この実践を通し、「問題解決能力育成」のためには、ある程度ゆとりを持ち、生徒主体の授業の進め方が重要であることを示している。
 寺門は、昨年生徒たちが体験した豪雨災害をもとに、生徒たち自身が話し合いで考えた課題研究テーマの中から一つを取りあげ実習を行わせた。
 やはりこの実践においても、生徒が研究全体を通して時間をかけながら試行錯誤を繰り返す過程において、「問題解決能力の育成」がなされていくことを実感した。
 
5 おわりに
 「生きる力を培う」=「問題解決能力の育成」という今回の研究テーマは、これまでのシンポジウムの中で最も難しいテーマと感じた。3年間の研修においてその点を十分理解し、それに沿った適切な実践できたかというと大いに疑問の残るところである。
 新学習指導要領において、今までより学習内容が大幅に削減されることが示されているが、実践を通して感じたことは、「生きる力を培う」ためには、それなりの時間が必要であり、授業内容の精選が不可欠であるということである。今回は1つの単元での実践であったが、地学分野全体においてこのような取り組みをして行かなければならないが、生徒の問題解決能力育成のためには、これから早急に検討して行く必要があると実感した。
 最後に、地学分野の研究班は2人であり、化学分野に寄生するかたちで研究実践を行ってきた。今後この講座がどのように進展していくのか定かではないが、科目毎の教員数を考慮した体制に整えていく必要を感じる3年間であった。