物理領域における実践
羽島北高等学校 古川 学
平成10〜12年度の理科研究講座において物理班で討議した内容を以下に要約する。
1 平成10年度
平成15年からの新教育課程の改訂作業が文部省で進むなか、中教審一次答申・中間報告を検討し、それぞれの学校の現状を踏まえて新しい理科指導のあり方について考え実践することになった。「生きる力を培う理科指導のあり方を踏まえ、一人一人の個性を生かした探究的な学習過程についての研究」をテーマとしてそれぞれの実践が行われた。
第1日目の分科会では、互いの現場の事情と問題点を話し合うことから始めた。各校ごとに事情があるものの知離れが進んでいることや、耐性が無くなってきているとの報告がなされた。研究の方向についての議論が十分できなかったが、「生徒が生き生きと活動する姿」を授業の中で実現することを目指した実践報告を行うことになった。
第2日目は、オハイオ州立大学のVictor J.Mayer氏の「Global Science Literacy」についての講演を聴く機会に恵まれた。地球や我々の住む住居環境を(宇宙空間における環境をも含めて)体系的に研究していくこと、また実験室だけではなく野外にでて実際に直接調べていくということを基本的な概念として持つこと、さらに技術や産業のための科学ではなくもっと広い地球を知るための科学であることなど、「Global Science Literacy」の内容はこの研究講座とも深い関わりがあり何らかの形で取り入れていきたいものであると感じた。
3日目と4日目の実践報告の概要を以下に示す。谷口(岐阜高校)は、物理TAの「光と音」の授業に生物学的な内容を盛り込み、物理・生物の枠を取り外し「最初に現象や実物ありき」ということと生徒の自由な発言を生かすことを重視した授業を構成し、実践報告をおこなった。
近藤(岐阜工業高校)は、生徒の興味にしたがい実験を自由に選択させ、課題学習的な方法で実験を実施した。「跳ね返り係数」「コンデンサーの電気容量の測定」の2例について報告が行われ、既成の実験書にしたがうことなく各自が実験方法を考える課題研究的な実験がより生徒の興味を引くとの報告がされた。
水谷(瑞浪高校)は、講義形式を少なくし実験・体験を伴う方式を多くすることや、生徒同士で考えたり教え合う形式を導入した授業を提案した。また力学分野で生徒の乗ることができるローラーのついた板を用いて、力の分野の現象(作用反作用、慣性の法則、運動量保存など)を実際に体験させる実践報告を行った。
吉田(岩村高校)は、実験室内にコンピュータや図書を備え、いつでも情報検索ができる環境づくりをするとともに、総合理科の授業で「発見する喜び、創る子供の発想をいかした観察、実験」をテーマとした「電線と地磁気で発電」「コンピュータ・TVの分解とそのしくみ」「身近なバイオテクノロジー」の3つの実践報告を行った。
渡辺(高山高校)は、家政科の物理TAで、@物理的な現象や道具器具に興味を持たせること、A授業や実験に積極的に参加すること、B定量的な考えができることなどを目標にした実践報告を行った。生徒一人一人の個性を大切にし、質問のやりとりが会話的になるよう心がけることによって、目標の実現に役立つとの報告をした。
2 平成11年度
昨年度の成果をふまえ「生きる力を培う理科指導のあり方」(一人一人の個性を生かした探究的な学習過程の創造)を主題として研究を進めていくこととなった。「生きる力」を問題解決能力と定め、その育成のための授業を研究していこうとの確認がされた。具体的には一単元全体を通して授業構成を考えること、また各時間は「自然の事物・現象を見る」「問題を見いだす」「問題を解決する」という探究的な形にしていくことなった。
第1日目の全体研修の中で、養護学校での幅広い個性を持った生徒に対して個性に応じて教師が丁寧に対応しているとの事例が紹介され、各学校において授業をする上で生徒の個性に応じて生徒を育てていくことを根本におくべきであると話された。分科会では、工業高校での実験を中心とした授業や物理TAでの授業の話など各学校での実情を理解した後、単元内の毎回の授業構成を問題解決能力育成の立場から検討し実践するという研究の方向について共通理解を図った。
第2日目は、実践発表が5件あった。このうち加速度について生徒自身が何時間もかけて追求し、その結果をレポート提出させるという実践に興味深いものがあった。全体的には物理現象への各自の自然観・教材観が討論の中心となり「生徒の問題解決能力を育成する」という議論までいたらなかった。生徒に何をどのようにつかませたいのか、各単元のなかで構成を考え直し教材観を確立した上で先のテーマに迫りたいとの反省となった。最後に、センターの先生から「一人一人の個性を生かした探究的な学習活動の創造」という論文について話していただき、今回の研究主題の方向を具体的に示すものとして大きな示唆を受けた。次回は今回の実践事例を継続するもの、また新しい単元をやるものそれぞれ今回の反省にたち再度報告することとなった。
第3日目は、6件の発表があった。それぞれ10時間程度の実践記録となっており、「自然の事物・現象を見る」「問題を見いだす」「問題を解決する」という形が各時間ともよく工夫されたものとなった。「問題解決能力の育成」という観点からの考察がたりないとの意見がでたが、授業自体が探究的な構成になっていれば、それを体験させること自体に価値があり「問題解決能力の育成」になるということで共通理解をした。次年度は、このような授業形態の単元を増やし授業案や学習ノートを明確な形で残すとともに、評価法についても検討しまとめの年としていくこととなった。
3 本年度の研究
全体テーマは11年度と同じである。まとめの年となり第1日目はシンポジウムに向けてどのように研究を進めどのような資料を作成していくか話し合った。
研究の方向としては9月までは昨年度の研究を再度練り直して実践する事となり、2日目には力学と波動の2分野で単元全体を通した学習ノートを各校の実状に合わせて作成するとともに実践報告を作ることとなった。
11年度にやり残した評価法については、本年度から研究員に加わった中島(郡上高校)が「生徒の問題解決能力についての評価に関わる客観テストの試み」として実践発表していくこととなった。
2日目は、5つの学習ノートの報告と「評価に関わる客観テスト」の報告があった。それぞれ単元の内容に応じて8枚から18枚といった枚数であった。学習ノートにはそれぞれ工夫がなされているものの、「問題解決能力の育成」を十分意識したものとなっていないとの反省もあり、「実験・観察・実習」「問題発見」「解決法」という構成が明確になるように再度検討することとなった。
3日目は、6件の実践報告があった。中島が作成した客観テストは各高校で実施され、そのデータが集約されてテスト内容の良否が検討された。学習ノートは前回と比べ改良されたものとなった。授業案も数時間分報告され、授業者がその時間で何をねらっているか、またどのように展開しようとしているのかよくわかるものであった。シンポジウムの別添資料として、それぞれ単元全体を通した学習ノートと指導案を作成することとなった。
4 おわりに
今回物理班では、評価法に関する報告と各学校の実状に応じた分野の異なる5つの授業実践の報告を行う。生徒が違うことや教師の個性により同じ分野でも様々な学習ノートが作成され実践された。それぞれの授業で生徒は物理現象をみて考えることを要求されるが、それに興味を持って取り組む。単純な数式で表せたことの不思議さや喜びはさらに自然現象への興味を高めていると報告されている。
今回作成した学習ノートや指導案によりある程度明確な形で第3者に実践の内容を残すことができたかと思っている。これを参考に少しでも多くの高校で探究的な授業が行われ、さらによい授業を構築できればと願っている。