高等学校学習指導要領から

  保 健 体 育

1 改訂の趣旨

Q 教育課程審議会の答申の中で、保健体育科の改善の基本方針については、どのように 
     示されているか。

@ 心と体をより一体としてとらえて健全な成長を促すことが重要であるという考え方に立ち、体育と保健をより一層関連させて指導できるようにする。特に、運動に興味をもち活発に運動する者とそうでない者に二極化していたり、生活習慣の乱れやストレス及 び不安感が高まっている現状を踏まえ、児童生徒が運動が好きになり、健全な生活習慣を身に付けることができるようにする。 

A 体育については、自ら運動する意欲を培い、生涯にわたって積極的に運動に親しむ資質や能力を育成するとともに基礎的な能力を高めることを重視する。このため、児童生 徒の発達段階に応じて、運動を一層選択して履修できるようにすることや体力の向上を図る上で内容を重点化するなどの改善を図る。また、自分の体に気付き、体の調子を整えるなどの「体ほぐし」にかかわる内容を示す。この新たな内容は現行の「体操」領域に示すとともに「体操」領域の名称を変更する。

  武道については、我が国固有の文化に触れるための学習が引き続き行われるようにする。

B 保健については、健康の大切さを認識し、健康なライフスタイルを確立する観点に立って、内容の改善を図る。その際、近年の成育環境、生活行動、疾病構造等の変化にかかわって深刻化している心の健康、食生活をはじめとする生活習慣の乱れ、生活習慣病、薬物乱用、性に関する問題等について対応できるようにする。また、新たに、自然災害 等における安全確保についても取り上げるとともに、健康・安全と運動とのかかわりについて、体験的な活動などを通して実践的な理解を深めるようにする。 

C 自然の中での遊びなどの体験が不足している現状から、各教科等との関連を図りつつ、

 地域や学校の実態に応じて、戸外で身体活動を行う自然体験的活動を積極的に取り入れていくようにする。

 

2 保健体育科の目標

Q 現行の学習指導要領と比べて、新学習指導要領ではどのような点が強調されているか。

 

<現行学習指導要領>

健康・安全や運動についての理解と運動の合理的な実践を通じて、計画的に運動をする習慣を育てるとともに健康の増進と体力の向上を図り、明るく豊かで活力のある生活を営む態度を育てる。

<新学習指導要領>

 心と体を一体としてとらえ、健康・安全や運動についての理解と運動の合理的な実践を通して、生涯にわたって計画的に運動に親しむ資質や能力を育てるとともに、健康の保持増進のための実践力の育成と体力の向上を図り、明るく豊かで活力ある生活を営む態度を育てる。

 

@ 今回改訂した保健体育科の目標は、基本的にはこれまでの考え方を踏まえつつ、より 一層体育と保健を関連させていく考え方を強調したものであり、保健体育科の究極的な目標である「明るく豊かで活力ある生活を営む態度を育てる」ことを目指すものである。

A 今回の改訂では、特に、保健体育科の具体的な目標である「生涯にわたって計画的に 運動に親しむ資質や能力の育成」、「健康の保 持増進のための実践力の育成」及び「体力の向上」の三つが相互に密接な関連をもっていることを強調するとともに、保健体育科の重 要なねらいであることを明確にしたものであ る。

 

3 保健体育科の科目編成

Q 標準単位数と履修学年についてどのように改訂されたか。 

@ 保健体育科に属する科目は、「体育」及び「保健」の2科目であり、その標準単位数は、下表のとおりである。また、この2科目はすべての生徒に履修させる科目であり、標準単位数を原則として下ってはならないものである。 

科 目

 標準単位数

体 育 

 7〜8単位

保 健 

  2単位

 

A 「体育は、各年次継続して履修できるようにし、各年次の単位数はなるべく均分して 配当するものとする。」と示している。したがって、いずれの課程にあっても、各学校の修業年限に応じてそれぞれ各年次に単位数を均分して配当し、計画的、継続的に履修させることによって指導の効果を上げる必要がある。

  「保健は、原則として入学年次及びその次の年次の2か年にわたり履修させるものとする。」と示している。

 

4 科目「体育」の目標及び内容

Q 現行の学習指導要領と比べて、新学習指導要領ではどのような点が強調されているか。

<現行学習指導要領>

 各種の運動の合理的な実践を通して、運動技能を高め、強健な心身の発達を促すとともに、公正、協力、責任などの態度を育て、生涯を通じて継続的に運動ができる能力と態度を育てる。

<新学習指導要領>

 各種の運動の合理的な実践を通して、運動技能を高め運動の楽しさや喜びを深く味わうことができるようにするとともに、体の調子を整え、体力の向上を図り、公正、協力、責任などの態度を育て、生涯を通じて継続的に運動ができる資質や能力を育てる。

@ 体育の目標は、保健体育科の目標を受け、これを科目としての体育の立場から具体化 したものであり、小学校、中学校及び高等学校の体育の一貫性を踏まえ、高等学校における体育の学習指導の方向を示したものである。

 

A この目標は、各種の運動の合理的な実践を通して、生徒が自己の能力等に応じて運動技能を高め運動の楽しさや喜びを深く味わうとともに、体ほぐしを行い、体力の向上を 図り、社会的な態度を育てることによって、生涯にわたる豊かなスポーツライフを実現していくことを目指したものである。

Q 体育の内容は、どのように構成されているのか。 

 体育の内容は、従前同様、「運動」と「体育理論」によって構成した。

@ 「運動」の内容は、小学校及び中学校との一貫性、各運動の特性、生徒の特性、学校の体育施設の状況などを考慮し、「体つくり運動」、「器械運動」、「陸上競技」、「水泳」、「球技」、「武道」及び「ダンス」の7領域で構成した。

各運動領域別の内容は、保健体育科の目標や「体育」の目標を踏まえ、(1)で技能の 内容を、(2)で態度の内容を、(3)で学び方の内容を示した。(3)で学び方の内容を今回の改訂で初めて示したことについては、体育の学習においても、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることができるようにするためである。このことについては、平成元年告示 の学習指導要領においても一部記されていたものを、内容の一つの柱としてより一層明 確に示し、豊かなスポーツライフの形成に資するようにしたものである。

 

A 体育理論の内容は、生徒の実態及び今日の社会の変化を踏まえるとともに、理論と実践の一体化を図ることによって生涯にわたって計画的に運動に親しむことができるよう 運動の学び方に関する内容等に整理し、「社会の 変化とスポーツ」、「運動技能の構造と運動の学び方」及び「体ほぐしの意義と体力の高め方」の3項目で構成した。

 

Q 各領域の内容についての改善の要点は何か。 

@ 体つくり運動

 従前の「体操」領域の名称を「体つくり運動」に改めるとともに、「体つくり運動」 を「体ほぐしの運動」と「体力を高める運動」で構成した。また、「体つくり運動」については全学年を通じてすべての生徒に履修させることを「内容の取扱い」に示した。なお、「体ほぐしの運動」については、「器械運動」から「ダンス」までの各運動領域 においても関連を図って指導することができること、「保健」における精神の健康などの内容との関連を図ること、「体力を高める運動」については、主として力強さとスピードのある動きに重点を置いて指導することができるが、個に応じて体力を全面的に高めることに留意することを「内容の取扱い」に示した。

A 器械運動、陸上競技、水泳

  個に応じた指導の充実を図る観点から、「自己の能力に応じて」運動の技能を高めることに改めた。

  器械運動の各種目には多くの技があることから、それらの技を系、技群、グループの視点によって分類した。

  水泳はねらいを明確にするために、「早く泳いだり長く泳いだりすることができるよ うにする」ことに改めた。なお、スタートの取扱いについては、事故防止の観点からプールの構造等に配慮し、生徒の能力に応じてプールサイド等から段階的に指導し、高い位置からのスタートへと発展させることができるようにする。

B 球技 

  チームや個に応じた指導の充実を図る観点から、「チームの課題や自己の能力に応じ て運動の技能を高める」ことに改めるとともに、ねらいをより明確にするため、「作戦 を生かした攻防を展開してゲームができるよう」に改めた。また、「地域や学校の実態 に応じて、その他の運動について履修させることができる」とした。

C 武道

  個に応じた指導の充実を図る観点から、「自己の能力に応じて」運動の技能を高める ことに改めるとともに、ねらいをより明確にするために相手の動きに応じた攻防を展開して、練習や試合ができるように改めた。また、地域や学校の実態に応じて、相撲、なぎなた、弓道などその他の武道についても柔道、剣道に加えて、又は替えて履修させることができることとしている。

D ダンス

  従前の「創作ダンス」と「フォークダンス」に加えて、新たに「現代的なリズムのダンス」を位置づけ、選択の幅を広げるとともに、生徒の能力・適性・興味・関心等に応 じて選択することができるよう改めた。なお、ダンスについては、地域や学校の実態に応じて、社交ダンスなどその他のダンスについても履修させることができることとしている。

E 体育理論

  体育理論については、「社会の変化とスポーツ」、「運動技能の構造と運動の学び方」 及び「体ほぐしの意義と体力の高め方」に整理統合した。

 

Q 各領域の内容の取り扱いは、どのように示されているか。 

@ 体育の内容の履修の仕方は、三つに分けることができる。

 ・ 体つくり運動及び体育理論を、各年次を通してすべての生徒に履修させること。

 ・ 器械運動、陸上競技、水泳、球技、武道及びダンスの6領域の中から、入学年次及びその次の年次においては、3領域又は4領域を、それ以降の年次においては、2領域から4領域を選んで履修できるようにすること。

 ・ 選択した3領域又は4領域、2領域から4領域の中に、それぞれ武道又はダンスのいずれかを含むこと。

A 自然の中での遊びなどの体験が不足しているなど、現在の生徒を取り巻く社会環境の中では、自然との関わりを深める教育が大切であることから、諸条件の整っている学校において、スキー、スケートに加えて、今回の改訂で新たに位置付けた水辺活動など、自然との関わりの深い活動を積極的に奨励しようとするものである。なお、レスリングについては、地域や学校の実態に応じて、従前同様加えて履修させることがで  きることとした。

 

B 「集合、整とん、列の増減、方向変換などの行動の仕方の指導については、各領域において適切に行うものとする。」運動を適切に行うためには、集団が一定の行動の仕方に従って、安全に、しかも能率的に行動することが重要であり、集団行動の指導に当たっては、集合、整とん、列の増減、方向変換などの行動の仕方が、各運動領域において適切に実践できるようにすることが必要である。 

なお、集団行動の指導の効果を上げるためには、保健体育科だけでなく学校の教育活 動全体において指導できるよう配慮する必要がある。

 

5 科目「保健」の目標及び内容

Q 現行の学習指導要領と比べて、新学習指導要領ではどのような点が強調されているか。

<現行学習指導要領>

 個人及び集団の生活における健康・安全についての理解を深めさせ、個人及び集団の健康を高める能力と態度を育てる。

<新学習指導要領>  

        

 個人及び社会生活における健康・安全について理解を深めるようにし、生涯を通じて自らの健康を適切に管理し、改善していくための資質や能力を育てる。

@ 「保健」の目標は、「保健体育科」の目標を受けて、これを「保健」の立場から具体化し、学習指導の到達すべき方向を明らかにしたものである。

A 「保健」の目標については、ヘルスプロモーションの考え方を生かし、生涯を通じて自らの健康を適切に管理し、改善していく資質や能力の基礎を培い、実践力を育成する ことを目指している。 

 

Q 内容の構成と改善の要点は何か。

 内容については、個人生活及び社会生活における健康・安全に関する事項を正しく理解できるようにするため、基礎的事項に精選することとした。その結果、従前の4項目の「現代社会と健康」、「環境と健康」、「生涯を通じる健康」、「集団の健康」を、「現代社会と健康」、「生涯を通じる健康」、及び「社会生活と健康」の3項目に再編成した。 また、心身の健康の保持増進にかかわる実践力を育成するため、単なる暗記や知識理解にとどまらず、自ら課題を見つけ、課題を解決していくような学習(課題学習)の展開、コンピュータの活用、実験や実習など体験的な学習を取り入れるなどの指導方法の工夫を行うとともに、適切な意志決定や行動選択が必要であることを示した。

@ 現代社会と生活

 新たに、生活習慣病の予防、エイズや腸管出血性大腸菌感染症などの感染症の予防及びストレスへの対処について取りあげるとともに、喫煙、飲酒、薬物乱用防止に関する内容を充実した。

また、交通安全及び応急手当については、多くの高校生が近い将来運転者として交通社会の一員となることを考慮し、必要な資質や責任、適切な行動や交通環境の整備などの必要性を、

また、傷害や疾病に際して応急手当を適切に行うことが重要であることなどを中心とした。

 

A 生涯を通じる健康

 「生涯を通じる健康」については、他教科との重複をさけるため、乳幼児の健康に関する内容を削除し、高齢化社会の問題については加齢と健康とのかかわりに限定するなど精選した。

 その際、生涯を通じて健康に生きていくためには、生涯の各段階における健康課題に応じた

自己の健康管理を行う必要があること、保健・医療制度及び地域の保健・医療機関など社会的資源を適切に活用することが重要であることなどを中心とした。

 

B 社会生活と健康 

 従前の「環境の汚染と健康」、「職業と健康」及び「環境衛生活動と食品衛生活動」の内容を統合し、整理した。具体的な内容としては、自然環境の汚染が社会生活における健康に影響を及ぼすこともあること、それを防止するための対策がとられていること、環境と食品を健康に適したものとすることや安全性の確保のために環境衛生活動や食品衛生活動が行われていること、健康的に労働を行うためには作業環境などの変化を踏まえた健康管理及び安全管理を行うことが必要であることなどを中心とした。

 

6 指導計画の作成と内容の取り扱い

Q 指導計画の作成及び内容の取り扱いで配慮する事項は何か。 

@ 各年次の「体育」の単位数

  「体育」の単位数は、従前、標準単位数が7〜9とされ、全日制課程の普通科については9単位を下らないこととしていたが、今回の改訂で、普通科、専門科ともに「体育」の標準単位数は7〜8と改められた。

 

A 各領域に配当する授業時数

  体つくり運動から体育理論までの8領域に対する授業時数の配当については、「その内容の習熟を図ることができるよう考慮するものとする」と示している。したがって、各領域に授業時数を配当する場合、あらかじめ、内容の習熟が期待できる授業時数を想定し、「体育」の総授業時数の中で調整していくことが大切である。

B 体育理論の授業時数

  従前、体育理論の授業時数については、体育の総授業時数の5〜10%とするものとすると示していたが、今回の改訂では、特に示すことはしなかった。

7 運動部の活動

Q 運動部の活動の指導について特に配慮することは何か。

@ 運動部の活動は、学校において計画する教育活動で、体力の向上や健康の増進にも極めて効果的な活動である。したがって、生徒が運動部の活動に積極的に参加できるよう 配慮することが大切である。また、互いに協力し合って友情を深めるなど、好ましい人間関係を育てるよう適切な指導を行う必要がある。

A 運動部の活動は、主として放課後に行われ、特に希望する同好の生徒によって行われる活動であることから、生徒の自主性を尊重する必要がある。その一方で、勝つことのみを目指した活動にならないこと等に留意する必要がある。そのためには、運動部の活動の意義が十分発揮されるよう生徒の個性の尊重と柔軟な運営に留意したり、生徒のバランスのとれた生活や成長のためにも休養日や練習時間を適切に設定したり、家庭や地域社会とともに生徒たちを育成する開かれた学校となるためにも必要に応じて外部指導者を活用したりするなど、適切な活動が行われるよう配慮して指導することが必要である。

B 従前の特別活動のクラブ活動が、放課後等の部活動や学校外活動との関連、今回創設された「総合的な学習の時間」において生徒の興味・関心を生かした主体的な学習活動が行われることなどから、今回の改訂で廃止された。したがって、運動部の活動については、従前にも増してより適切に行われるよう配慮する必要がある。

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