〔岐阜県教育センター研究紀要(技術・家庭科)〕

<研究の概要>
1 研究主題設定の理由
2 研究仮説
3 研究の内容と方法
4 研究の実践
5 研究のまとめ

〔技術・家庭科/製作や実験などの体験を通して,自ら環境を考え生活を工夫し創造する力を育てる指導〕
                                                (中学校)3年計画 完結年次

研究の概要
 本研究の目的は,生徒が製作を通して環境について考え,時代の変化に対応し,生活を工夫し創造する力を育てる指導の在り方を明らかにすることにある。そのために,技術・家庭科における環境教育の視点を明らかにした題材の開発や,それにかかわる指導計画の立案を行い,授業実践を行った。また,新学習指導要領の実施へ向けて各領域との関連を図りながら,3年間を見通した技術・家庭科における環境教育について研究を深めた。


キーワード   環境教育 題材の開発 リサイクル エネルギー 有機栽培

1 研究主題設定の理由

 かけがえのない地球環境を守ることの重要性が国内はもとより,世界的規模で問題となっている。そこで,私たち一人一人が環境問題に関心をもち,責任ある行動を身に付ける必要性から,学校教育における環境教育の重要性がクローズアップされてきている。技術・家庭科においても,これまで,各領域での学習の総括として,「日常生活と産業の中で果たしている材料や資源の役割」について環境問題とかかわりをもたせながら学習を進めてきた。その結果,学んだことを発展的に考えることができるようになってきたが,次のような点が課題として残った。
 指導する側として
・領域の学習内容が中心となり,環境問題にかかわる視点や内容を含んだ題材及び指導計画が少ない。
・教科の特質である製作や体験を通して,資源の重要性を考える場が十分確保されていない。
 生徒の姿として
 ・学習したことを生活の場で生かしたり,進んで環境問題にかかわったりする態度が十分育っていない。
 そこで,本研究では技術・家庭科における各領域の学習を環境教育の視点から見直し,学習内容の精選及び題材の開発を行うことを考えた。そして,製作や調査などの体験を通して環境について考え,生活を工夫し創造することができるよう本主題を設定した。

2 研究仮説

 環境教育の視点から,指導内容の精選及び題材の開発を行い,資源の有効活用や環境と私たちの生活について考える実践的・体験的な学習活動を行えば,自分のまわりの環境を見直し生活を工夫し創造する力を育てることができる。

3 研究の内容と方法

研究主題にせまるために,次の3点について焦点化を図り,授業実践を通して研究を深めた。
 (1) 題材の開発と指導計画
  ア 3年間を見通し,環境問題を考える題材の開発
  イ 環境の視点を位置付けた指導計画の作成
 (2) 環境を考える学習活動
  ア 環境に対する意識に基づいた,実践的・体験的な学習活動
  イ 環境を考え自分自身の生活を高めていこうとする意欲の評価
 (3) 学習環境の整備
  ・インターネット等を有効に活用した学習資料の充実

4 研究の実践

(1) 題材の開発と指導計画

ア 年間を見通し,環境問題を考える題材の開発
 技術・家庭科における環境教育は次の視点をもち,単元を構成したり題材の開発を行ったりすることが大切であると考えた。
・科学技術の高度な発達が私たちの生活を充実させている反面,資源やエネルギーの不足,環境問題を引き起こしていること。
・身のまわりには,再利用や再加工などの方法で多くの資源が有効活用できること。
・「ものづくり」を通して材料と工具,技術と私たちの生活とのかかわりを理解させること。
 すなわち製作や実習を行う過程の中で,環境問題に関心をもち,進んで考え自分たちの生活を工夫し創造しようとする態度を育てることを中心に考えた。したがって題材はあくまでも,環境問題のみを取り上げるだけではなく,
・一つの作品としての完成度があること
・基礎的・基本的事項が含まれていること
が大切になり,技能の習得を通して学習のねらいにせまるようにした。
 また,新学習指導要領実施にあたって技術・家庭科では,3年間の指導計画を学校,地域の実態に応じて作成できるようになっている。そこで,一つの題材における学習時間を5〜8時間程度とし,すべての題材を扱うのではなく,中学校3年間の中で技術・家庭科として環境にかかわる内容を学校,地域の実態に応じて学習できるようにした。図表1は中学校3年間の技術・家庭科における環境教育の見通しと,各領域における目標及び題材例を示したものである。


             図表1 技術・家庭科における3年間を見通した環境教育
          

 
イ 環境の視点を位置付けた指導計画の作成
 単元の指導計画作成に当たっては,生徒がこの単元で何を学習するのか明確になるように,「単元を貫く課題」を設定した。そして毎時間の授業に次のような役割をもたせた。
 ・問題となる原因を探ったり,解決方法を考えたりする授業
 ・製作を通して環境問題について積極的にかかわる授業
 ・環境問題を自分との関係としてとらえる授業
   また,環境問題にかかわる見方・考え方は,一つの単元だけでなく,繰り返し学習することによって育てられるものであるととらえている。そこで,単元の指導計画には基礎的・基本的な技能及び,環境にかかわる視点を明確にした。
 図表2は金属加工「アルミニウム缶よ,もう一度」の指導計画である。

                 図表2 単元指導計画の例



(2) 環境を考える学習活動
ア 環境に対する意識に基づいた,実践的・体験的な学習活動
   単元の学習を通して,技術・家庭科の「進んで生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる」という目標の実現が,環境教育の推進になると考えている。すなわち,学習内容の充実が環境教育につながるととらえている。そのためにも,毎時間の授業では環境にかかわる視点をもち生徒が活動したり,考えたりする必要があるととらえている。そこで,次の3つの事例に示すように,環境問題にかかわる生徒の意識に基づいて,実践的・体験的な学習活動を計画し,授業実践を行った。

【実践事例1】

@単元 「大切な電気エネルギー」
A単元構成の意図
 生活の中における電気を,電気エネルギーの有効な利用という立場から,単元の構成を考えた。家庭に送られてくる電気は発電所で作り出されるエネルギーの1/3ほどしか電気のエネルギーとして利用されていない。しかし,私たちはスイッチ一つで電気を利用しており,電気エネルギーを大切に扱うことを意識することは,ほとんどない。
 そこで,生徒にとって身近な電気をエネルギーの有効活用という立場にたって見直し,生活の中に役立てていこうと考えた。具体的には電気の有効な利用の仕方について,共通テーマ「電気エネルギーを有効に使うには」をもとに,個人課題設定をして,インターネット等から情報を得てまとめる活動である。指導計画は次のようである。
  第1時 個人テーマの設定
  第2時 テーマへの取り組み
   〜   ・「省エネルギー対策」
  第5時  ・「新エネルギー」 等
  第6時 研究成果の発表

B本時の指導(第1時 個人テーマの設定)
 電気エネルギーが私たちの生活の中で,光や熱などのエネルギーに変換されて利用されていることは理解している。しかし,そこには大きなエネルギーのロスがあることは知らない生徒が多い。そこで,電気の浪費によってその何倍ものエネルギーの無駄になっていることを意識させたいと考えた。
 この授業では,身近な電気エネルギーが光エネルギーに変わるまでのエネルギーの変換の割合について補助資料を用いて提示した。生徒は,点灯している白熱電球のまわりに手をかざすことで,光だけではなく熱にも変わっていることを実感した。さらに,電力会社の資料から送電線での電力のロスについて学習を深めると,生徒はこれらから「電気は有限だからもっと有効に使わないといけない。」という意識をもった。そして本単元の「貫く課題」を「電気を有効に利用するには,どうしたらいいのだろうか。」と設定した。生徒は,家庭での有効利用ということで,家庭でできる節電方法を考えた。生活経験から,「必要のない電灯を消す。」「消費電力の少ない電化製品に買い換える。」「必要以上の設定温度で電化製品を使用しない。」などのことを考えるようになった。そして,映像資料で,化石エネルギーの現状について視聴し次のような個人テーマを設定した。
  ・化石エネルギーから新エネルギーへ
  ・有効な節電の方法に付いて 等
生徒の感想
 家の蛍光灯はスイッチを入れれば,あたり前に点灯すると思っていたけど,今日の授業で本当は電気を発電所から家まで送ってくることは,とても大変なことだということが分かった。化石エネルギーが数年後はなくなってしまうことを知ってびっくりしたし,電気を無駄づかいしたらいけないと思った。私は,節電に気を付けて生活したいし,これからの授業で太陽エネルギーについて調べてみたいと思った。

次時からは,個人テーマによる課題研究を行い,プレゼンテーションソフトを用いてまとめる活動を行った。

【実践事例2】
@単元名 「アルミニウム缶よ,もう一度」
A単元構成の意図
 私たちの身近にあるアルミニウム缶を再利用し,作品にまとめあげる単元の構成を考えた。今まで金属加工の作品は,薄板金や棒材を加工するものがほとんどであった。それに対して本単元では,アルミニウム缶を溶融して鋳型に流し込み,出来上がったものを研磨等し作品にするものである。アルミニウムはリサイクルした方がボーキサイトから製錬するよりもはるかに生産エネルギーが少なく,リサイクルのみならずエネルギーの有効利用という観点からも適切なものである。
 また,アルミニウムが溶け,流し込みをするには約750℃の温度が必要であるとされ,そのための溶解炉の製作や,七輪と鉄鍋による過熱など,写真のような教具の開発や工夫を行った。 (指導計画 図表2参照)


<鋳型に流し込みをする生徒>


B本時の指導(第5時 鋳型への流し込み)
 この授業では本時の課題を「アルミニウム缶を鋳造してリサイクル作品を作ろう」と設定し,一人一人の生徒が,溶けだしたアルミニウムを鋳型に流し込む作業を行った。生徒は日常的には見ることのできない,金属の融解という現象や,実際に解けた金属を扱う体験ができ大変感動していた。溶融しているアルミニウムを汲み出すとき,空気に触れると瞬時にして固まってしまうなど,金属の特徴を十分体験することができた。このように,一つの作品を作るのにも多くのアルミニウム缶が必要になることを体験し,アルミニウム缶の回収運動の重要性を理解することができた。
生徒の感想
 アルミニウムの流し込みは素早くやらないと,すぐに固まってしまうので難しかった。 でもいつもは硬い状態のアルミニウムがどろ どろに溶けているのには驚いた。缶と違うものにリサイクルできたので良かった。今後は缶の分別回収を心がけたいと思ったし,空き缶のポイ捨てなんてもっての他だと思った。

【実践事例3】

@単元名 「体にやさしい野菜を育てよう」
A単元構成の意図
 一つの花や野菜を育てるにも,水や空気,日あたりなど様々な環境と向き合わなければならない。栽培を行うこと自体が環境と大きくかかわっている。また,長い時間をかけながら「命」を育てることで,環境に対する意識や実践的な態度をより確かなものにできると考えた。
 本単元では,秋まき野菜の栽培を通して,土作りと害虫防除の2点について内容を焦点化した。これらは,環境問題の中の,ゴミ問題や化学物質による汚染と密接にかかわっている。
 「生ゴミ発酵肥料による土作り」では,家庭からの生ゴミを持参させ,ボカシによる発酵肥料を作った。生ゴミを肥料に用いる方法はほとんどの生徒が初めての体験であるが,家庭でもすぐに実践でき意欲ももちやすい。また,発酵後の生ゴミは異臭もなく,自然にやさしい肥料であり,生徒自身が自分で作った土であるという意識が生まれると考えた。
 「自然農薬による害虫防除」では,化学農薬を使わず,植物抽出エキスなどの自然物から作った殺虫・防虫剤(自然農薬と名付ける)で害虫を防除する方法を行った。防除の方法については,自分の育てている野菜を観察し,その状況に合わせてニコチン液の散布やアルミニウム箔で囲むなどの方法を選択した。事前に農薬の害に関する映像資料を見せることで,生徒の興味・関心を高め,野菜を病害虫から何とかして守りたいという願いをもたせる工夫をした。指導計画は次のようである。
 第1時   栽培計画・生ゴミ肥料作り
 第2時   土作り・種まき
 第3時   間引き・追肥
 第4時   日常管理
 第5・6時 自然農薬による病害虫の防除@A
 第7時   収穫
 第8時   栽培のまとめ
B本時の指導(第2時 土作り・種まき)
 この授業では,本時の課題を「プランターの土を野菜の栽培に適するように改良しよう。」と設定し,栽培にふさわしい環境について考えた後,生育に必ず必要になる肥料として,「生ゴミ発酵肥料」を土に埋める作業を行った。生徒は,前時に生ゴミにボカシを混ぜる作業をしており,その際の悪臭に閉口していたが,完成した「生ゴミ発酵肥料」に臭いはほとんどなく,その変化に大変驚いていた。また,自分自身で作った生ゴミ発酵肥料を作ることで,育てる野菜のために最適な環境を作り出すことができた。さらに,土も自分自身が作ったものであるという意識が芽生えた。
 このように自ら進んで,植物に最適な自然環境を考え,実際に働きかけることで,わずかであるが生ゴミ処理に貢献できたという意識をもつことができた。そして,自分でも実践してみようとする意欲をもつことができた。


<ボカシによる作業の様子>


生徒の感想
 今日の「生ゴミ肥料」は,見た目は悪いけ ど予想と違って臭くなかった。これで,野菜が 大きく育つといいし,自然のものからできた 肥料だから,おいしい野菜になると思う。  生ゴミを使って肥料を作ったのは初めてだ けど,こういうのが広まると,もっとゴミは 減るし,環境にもいいと思います。家でもで きそうなのでやれるといいと思いました。

イ 環境を考え,自分自身の生活を高めていこうとする意欲の評価
 環境学習を進める上で,実際の生活の場面でどうするのかという,実践的な態度が大切になってくる。その意味では技術・家庭科では自分たちの生活を工夫し創造させるところにねらいがあり,学習内容そのものが生活の場面で生きてくると考えている。そこで,学習の終わりには自己評価の時間を位置付け,学習したことをどう実生活の場で生かしていけるのか,具体的な場面をイメージして記述による自己評価をさせた。前述の実践事例1〜3までにおける生徒の感想がそれに当たる。そして,教師は一人一人の評価欄に朱筆を加え,どんな点について値うちがあるのか示したり,次時の活動の始まりに,仲間の感想として紹介したりして価値付けた。

(3) 環境の整備
・インターネット等を有効に活用した学習資料の充実
 環境問題については,社会的にもクローズアップされ,それにかかわる資料も多くある。環境問題について学習を進めるとき,一見多くの情報があり学習するのに便利なように見える。しかし,中学生という発達段階や,技術・家庭科の教科としての学習内容とのかかわりを考えたとき,生徒が適切な情報を得ることができるかが,学習の成立に不可欠になってくる。そこで,教師が予め補助資料を準備し,望ましい情報の在り方を示した。そうすることでインターネット等からの情報収集ではスムーズな活動ができた。
 また,Webページを印刷してテーマのもとに系統的に掲示したり,教室内にコンピュータを配置し,調べ学習で活用できるようにすることも,課題の解決には大変有効であった。

5 研究のまとめ  (○成果 ●課題)
○技術・家庭科の学習内容を「環境」という視点からみた題材の開発や指導計画の作成ができ,具体的な授業実践を行ったこと。
○実践的・体験的な学習活動が環境と生活とのかかわりを密にし,環境問題を自分の課題としてとらえ,生活を向上させようとする態度を育てたこと。
●各教科及び家庭分野の連携を図りながら,学校全体として環境問題に取り組んでいくこと。
●新学習指導要領の内容と照らし合わせながら,題材や指導計画の一層の工夫改善を図ること。

【参考文献】
明治図書 中学校技術・家庭科で進める環境教育
      (平成6年)
文部省  中学校学習指導要領(平成11年)