垣根を使ってドライポイント 
 
 インドネシアにはプラスチック製品がとても多くある。ならば塩化ビニール板もすぐに見つかるだろう、
そう安易に考えたのがまちがいだった。
 海外日本人学校での教材教具探しは難しい。日本のように専門の教材屋さんがあるわけでもなく、
工作道具や日曜大工用品の手に入るホームセンターがあるわけでもない。
 大体画用紙というものさえない。4ッ切り画用紙が手に入らない。規格はA版になっているし。薄くてケ
ント紙みたいだし。もし欲しければシンガポールへ注文する事になってしまう。
 とりあえず現地スタッフにいつもペンキやらマジックを持ってくる文房具屋さんに探してもらうことにした
がいい返事が来ない。
 周囲を見渡してこれに代わる材料がないか探してみた。下敷きは値段が高い上いいものがないし、
それではビデオテープのケースではどうか、と考えその切れ端を持っていって探してもらったりしたがつ
いに見つけることができなかった。
 しかし実に身近なところにそれがあったのだ。それも毎日自分の家で見ているものだったとは。
 まさに目からうろこ、発想の転換が必要だった。
その材料とは垣根に使われている目隠し用の塩化ビニール板。これはよく行く木や釘、ペンキなどうってる住宅建材さんで見かけたことのあるものだった。気がつくのに一年もかかってしまった。
 
 インドネシアではよく住宅の垣根に貼ってある不透明の塩化ビニール板。 このほかにもグラスファイバー製のもあるが、これはおれやすく堅いので、ドライポイントにはむかない。 
 買ったとき1メートルあたりやく500円位。交渉したけれどまけてくれなかった。 
 こういう店はだいたい定価というものがないので、自分がその値段で納得できるかどうかによる。 
 ローカルの人には、安い値段を言ったりすることがある。日本人価格があるのではないかと思っている。 
 巻いた状態で売っていて、簡単に伸ばせない。写真は25センチ×30センチにきるため、マジックでしるしをつけて、カッターで切っているところ。 
 教材作りは、値段交渉から始まる。
 普通の状態でもこんなに曲がりぐせがついていてとってもやっかい。 
これをどう平らにしたらよいのか、新たな問題が生じて来る。 
 片面は平らになっていて、反対側は細かい凹凸がついていて半透明になっている。目隠しや屋根の材料として売っているので、透明なものはないようだ。ちなみに日本でよくある波板もこちらにはある。
 
 曲がり癖のついたエンビ版を平らにしなければならない。そのために平らにした状態で熱を加える必要がある。数枚ずつをベニヤ板ではさみ、はたがねで止めた。 
そのまま大きな鍋の中の熱湯につけた。バテックの時使ったやつ。 
 最初はどうやったらいいか分からなく、逆に巻いてみたり、板にはさまずに熱湯につけたりして、失敗をした。そこで技術の先生に相談したら難なく解決してしまった。何事も勉強。
 熱したあと冷水の中につけて冷やしているところ。 
このあとはさんだ板から取り出すと、真っ直ぐになっていたので、子どもたちは感動していた。教師が胸を張る一瞬だ。
 
 題材は学校にいる動物とした。ジャカルタ日本人学校には動物ランドがありたくさんの小動物が飼われている。鶏も日中は放し飼いで、学校農園やグランドの隅の方で歩き回っている。現地スタッフの人たちは小鳥好きで、学校の中で小鳥を飼っていたりする。絵を描かせたいから見せてと頼むと自慢の小鳥を貸してくれる。 
 動物ランドにはウサギ、山羊、まめ鹿などが放し飼いになっている。 

 これは、下描きの上にエンビ版をのせて彫っている途中。 
黒いウサギと花を組み合わせてある。 教師作品。 
 

 下に黒い紙をしいて、彫り具合を確かめてみた。日本で使っていいるのと比べて厚さは厚いものの、比較的柔らかくて彫りやすい。日本製と比べてまったく遜色がなかった。
 
 子どもたちの作業の様子。 
 ニードルがないので千枚通しやきり、彫刻刀を使って彫っている。 
 細かい作業なので結構集中力がいる。
 手元の様子。 
 下に黒い紙を敷いて彫りあとを確認しながらの作業。 
 だいたいこんな感じに彫れる。はじか彫りのため、めくれも結構出きる。
 インクをつけたところ。今回カラーインクを使った。日本から送ってもらった日本製。インドネシアはあんまり版画が盛んではないのでこればかりはここでは手に入らない。でもパサール=スニ 
(美術市場)には版画作品があったので、あるのかもしれない。 
 今回用意したのは、黒、赤、紺、緑の4色のインク。 
 場所によって刷り込む色を変えてみた。 
ふき取り後の様子。 
 ま こんなもんかな。 これは教師作品
 
 エッチングプレスを使って試し刷りをしてみた。こんな感じかな。 
 紙はこちらのケント紙の薄いような画用紙を使ってみた。 
 しめらせてから刷った。 
 日本でやったときとそう変わらない出来だと思う。
 耳の部分のアップです。凹版画らしいタッチが出ました。 
 レンブラントとは行きませんが。
 左上の花の様子です。かなり細かい線まで出たように思います。
 足下と足下に生えている草のアップです。めくれがあるため線が白くなったところもすこし見られます。 
 今回の教材化は大成功だったと思う。
生徒の作品から
       
先生のはこちら
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