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高等学校 公民科

 平成15年度から実施されている新学習指導要領について、Q and A方式で解説します。
<目次> T 改訂の趣旨
U 地理歴史科の目標
V 科目編成の改善の要点
W 各科目の変更点
X 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱について
T 改訂の趣旨                                 ↑このページの先頭へ
 教育課程審議会の答申の中で、社会科・公民科の改善の基本方針は、どのように示されているか。

  小学校、中学校及び高等学校を通じて、日本や世界の諸事象に関心をもって多面的に考察し、公正に判断する能力や態度、我が国の国土や歴史に対する理解と愛情、国際協力・国際協調の精神など、日本人としての自覚をもち、国際社会の中で主体的に生きる資質や能力を育成することを重視して内容の改善を図る。

 児童生徒の発達段階を踏まえ、各学校段階の特色を一層明確にして内容の重点化を図る。また、網羅的で知識偏重の学習にならないようにするとともに、社会の変化に自ら対応する能力や態度を育成する観点から、基礎的・基本的な内容に厳選し、学び方や調べ方の学習、作業的、体験的な学習や問題解決的な学習など児童生徒の主体的な学習を一層重視する。

 高等学校公民科における改善の中に示されている具体的事項は何か。

   主な改善のポイントとして次の4点があげられる。   

 @現行の三つの科目の特質を一層明確にする。  
 A課題を設定し追究する学習を重視する。   
 B社会的事象に対する客観的で公正な見方や考え方を深める。   
 C現代社会の諸課題と人間としての在り方生き方について考える力を一層養う。    

 「現代社会」については、多様な角度から現代社会をとらえるとともに、倫理、社会、文化、政治、経済の領域にかかわる現代社会の諸課題を取り上げて考察することに重点を置く。    

 「倫理」については、自己や現代社会の倫理的課題を主体的に追求し、人間としての在り方生き方について理解と思索を深め、生きる主体としての自己の形成が図れるようにすることに重点を置く。    

 「政治・経済」については、政治や経済の基本的な概念や理論を学習し、その基礎の上に立って、現代社会の動向や課題について考察することに重点を置く。

U 公民科の目標                           ↑このページの先頭へ
 現行学習指導要領と比べて、新学習指導要領ではどのような点が強調されているか。

   現行学習指導要領と新学習指導要領における公民科の目標(下線部が改善点)

        <現行学習指導要領>            <新学習指導要領>

 広い視野に立って、現代の社会について理解を深めさせるとともに、人間としての在り方生き方についての自覚を育て、民主的、平和的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養う。     広い視野に立って、現代の社会について主体的に考察させ、理解を深めさせるとともに、人間としての在り方生き方についての自覚を育て、民主的、平和的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養う。                 

 目標については、現代の社会についての理解と人間としての在り方生き方についての自覚を通して公民としての資質を養うという、従前の基本的な考え方を継承している。しかし、今回の改訂では「主体的に考察させ、」の文言を新たに加え、公民としての資質として、「現代の社会について探求しようとする意欲や態度」が強調されている。

 これは、改善の基本方針に沿いながら、この教科の基本的なねらいをよりよく実現しようとすることを示唆している。すなわち、これまでよく指摘されていた網羅的で知識偏重の学習に陥らず、生徒の現代社会に対する関心を高め主体的に課題を追究させるなど、問題解決的な学習を重視するとともに、このような学習を踏まえて人間としての在り方生き方について考える力を養う学習を一層充実させようとしているのである。    

V 科目編成の改善の要点
 現行学習指導要領と新学習指導要領では科目編成はどのように変わったか。また、標準単位数については、どのようになったか。 




 
従  前 改  訂
現代社会  (4)
倫   理  (2)
政治・経済 (2)
現代社会  (2)
倫   理  (2)
政治・経済 (2)

( )内の数字は標準単位数  





 教育課程の一層の弾力化を目指す中で、各教科・科目と標準単位数について、「答申」では、必ず履修すべき教科・科目の単位の総数が縮減できるように、各教科において必修となる科目として、可能な限り小さい単位数の科目を設けるという考え方が示された。    

 公民科では、科目構成は従前と同様であるが、 標準単位数については「答申」の考え方に沿って「現代社会」の標準単位数は4単位から2単位に縮減された。  

 
W 各科目の変更点                             ↑このページの先頭へ
 必修科目の取扱いについて、変更点はあるか。
 従前と同様に、「現代社会」又は「倫理」・「政治・経済」をすべての生徒に履修させる科目とするが、標準単位数はいずれも2単位で、5通りの組み合わせで選択必修が可能である。
 「現代社会」の目標の改善内容とその理由は何か。 

 「現代社会」は、この1科目だけで教科の目標をも達成する科目として設けられている。そのため、「現代社会」の目標は、公民科の教科目標を受け止める構成となっており、教科目標の改善を受けて、今回の改訂では「主体的に考え公正に判断する」という文言が新しく入った点が改善のポイントである。    

 「主体的に考え」と示しているのは、生徒が現代の社会に対する関心を高め、意欲をもって考察する学習、また生徒が主体的に課題を設けて追求する学習を重視することが求められているからである。    

 「公正に判断する」とあるのは、人が何事かを判断するに当たっては、自分の主観的な判断に依るだけでは他の人になかなか受け入れられないのであり、世の中には様々な立場や考え方があり、それぞれ根拠をもって存在し主張していることを理解し、それを踏まえ広い視野に立って判断することによってこそ自らの判断が他の人に受け入れられること、いわば判断に客観性をもたせることの大切さを示したものといえよう。

 単位数の縮減を踏まえて「現代社会」の内容構成はどのようになったか。 

  現行では「(1) 現代社会における人間と文化」、「(2) 環境と人間生活」、「(3)現代の政治・経済と人間」、「(4)国際社会と人類の課題」の四大項目で構成されていたが、今回の改訂では、「(1)現代に生きる私たちの課題」と「(2)現代の社会と人間としての在り方生き方」の二大項目で構成されている。    

 大項目(1)と(2)を比べると、大項目(2)は、従前のように、社会、政治、経済的な事項・事柄を中心に構成され、その中で在り方生き方を考えさせるようになっている。一方、今回新しく設けられた大項目(1)は、現代社会の諸問題を取り上げ、自己とのかかわりに着目して課題を設け、倫理、社会、文化、政治、経済など様々な観点から追求し、いかに生きるかを主体的に考えることの大切さをねらいとして示しているだけで、内容より追求の仕方を重視している。    

 今回の改訂では、問題解決的な学習など、生徒の主体的な学習を一層重視しており、内容構成においても課題追求的な学習を展開する項目が設けられている。    

 なお、大項目(1)と(2)の時間配当については、およそ1:2もしくは1:3が目途となる。

 「倫理」の基本的性格は、改訂により変わったのか。また、目標については、どのよ  うな改善が行われたのか。 

  従前からもっている基本的な性格は変わっていない。すなわち、先哲の基本的な考え方を手掛かりとして、人間の存在や価値について思索を深め、生徒が自らの人格の形成に努める実践的な態度を育てるという、「倫理」の基本的な性格は、変わることなく継承されている。このことを前提として、今回の改訂の要点は次の二点である。    

 @人間としての在り方生き方に関する教育として、高等学校における道徳教育の役割を一層よく果たすことができるよう、生徒の当面する生き方の課題を学習の中心としながら、その課題を先哲の考え方などを手掛かりにして学ぶことができるように内容の構成を工夫したこと。    

 A学習内容を生徒が単に知識として受け止めるのではなく、常に自己の課題として受け止める学習となるよう、指導の工夫に幅をもたせたこと。    

 @については、学校教育全体に要請されている「生きる力」、特に「生きる力の核となる豊かな人間性」を育成するという「心の教育」を重視する観点から、その重要な役割を担う科目としての性格付けを、Aについては、「倫理」の学習が「生きる主体としての自己の確立」にあることを、一層明確にすることにつながる。

 目標については、今回の改訂では「生きる主体としての自己の確立を促し、」という文言が新しく入った点が改善のポイントである。それは、「倫理」の学習が主として自己自身の内面的な形成にあるという科目の特質を一層明確に示そうとしたからである。「倫理」では、主体の形成が重要な学習課題となる。つまり、「倫理」の指導においては、人間についての客観的認識から、いかに生き、いかなる人間になることを目指すかという主体的な自覚を深めさせることを目指している。それゆえ、自己自身の人生観・世界観ないし価値観の育成を目指した学習を行うことが必要となる。そして、そのことは、一人一人の生徒が将来において自己実現を果たすことにつながる。    

 公民科全体の目標の改善点でもある「主体的に考察」させるということは、「倫理」においては、まさに「主体の形成」であり、そのことに向けた一人一人の生徒の主体的な学習をどう展開できるよう工夫するかということである。

 「倫理」の内容構成はどのようになったか。

  内容の構成は、従前の三大項目による構成を、内容を精選し生徒自身の人生観・世界観ないし価値観の形成を図るという観点から、以下のような二大項目に再構成している。    

 @「(1)青年期の課題と人間としての在り方生き方」では、この項目全体を通じて自己の生きる課題とかかわりを重視しながら、青年期のもつ意義と課題を理解させ自らの自己形成の課題を明確にもたせるとともに、先哲の基本的な考え方を手掛かりとして、人生における哲学、宗教、芸術のもつ意義など、あるいは日本人にみられる人間観、自然観、宗教観 などの特質についての理解を通して人間の存在や価値について思索を深めさせることを主なねらいとしている。特に、ここでは、先哲の思想を単に知識として学ぶ学習から、自らの課題とつなげて人間としての在り方生き方について主体的に学ぶ学習への転換を図ることを重視している。    

 A「(2)現代と倫理」では、現代の倫理的課題について自己の課題とつなげて追究し、現代に生きる人間としての在り方生き方について自覚を深めさせることを主なねらいとしている。特に、ここでは、現代を生きる上での倫理的課題について、自らの生き方につながるような学び方を通して思索を深め生きる主体としての豊かな自己形成を図ることができるようにすることを重視している。

 「政治・経済」の目標について、変更点は何か。 
  新しい「政治・経済」の目標の「主体的に考察させ、公正な判断力を養い」となっている部分において、「主体的に」という文言が新たに入っている。これは、教育課程審議会の答申の「社会の変化に自ら対応する能力や態度を育成する観点から、・・・問題解決的な学習など児童生徒の主体的な学習を一層重視する」という趣旨を踏まえたものであり、生徒が現代社会の諸課題について主体的に考察し、望ましい解決の在り方を追求させることを示唆している。
 「政治・経済」の内容構成はどのようになったか。 

  現行では、「(1)現代の世界と日本」、「(2)現代の政治と民主社会」、「(3)現代の経済と国民生活」の三つの大項目が設けられていた。特に、大項目(1)にこの科目の導入部分としての性格をもたせて、現代の世界と日本について総合的に理解・考察させ、大項目(2)、(3)で政治と経済を別個に学び、それぞれの諸課題について考察させる構成となっていた。現行の内容構成は、現代の世界と日本の総合的な理解から政治と経済の分析へと展開する点に特色がある。  
 今回の改訂では、「(1)現代の政治」「(2)現代の経済」及び「(3)現代社会の諸課題」の三大項目構成となった。大項目「(1)現代の政治」では、政治にかかわるできごとをとらえるための基本となる概念や理論について学ばせるとともに、民主政治の本質や国際政治の特質などの探究を通して、政治についての基本的な見方や考え方を身に付けさせる。    

 大項目「(2)現代の経済」では、経済にかかわる諸事象をとらえるための基本となる概念や理論について学ばせるとともに、現代経済の特質などの探究を通して、経済についての基本的な見方や考え方を身に付けさせる。    

 大項目「(3)現代社会の諸課題」では、課題の本質や問題点をとらえ、政治と経済とを関連させながら望ましい解決の在り方について考察させる。    

 今回の改訂では、大項目(3)にこの科目のまとめとしての性格を持たせており、大項目(1)及び(2)を学ばせ、それらの理解の上に立って大項目(3)を学ばて、現代社会の諸課題を考察させる構成となっている。このように、新しい「政治・経済」の内容構成は、現代の政治と経済の分析から現代社会の諸課題の総合的な考察へと展開する点に特色がある。

   
X 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱について↑このページの先頭へ
 「現代社会」において、課題を追求する学習をどう工夫したらよいか。

  課題を追求する学習の充実と学び方の習得を図るため、今回の改訂で大項目「(1)現代に生きる私たちの課題」が新しく設けられた。ここでは、一定の知識を理解することを前提として学習が展開されるのではなく、生徒の主体的な課題追求を中心とした学習が行われるよう、五つの事項を現代社会の諸問題として「内容の取扱い」に示している。    

 すなわち、「地球環境問題」、「資源・エネルギー問題」、「科学技術の発達と生命の問題」、「日常生活と宗教や芸術とのかかわり」、「豊かな生活と福祉社会」であるが、ここでいう諸問題とは、生徒が学習するときの主題であり、また具体的な課題を設ける際の範囲つまり問題領域として考えられるものである。実際の授業においては、その中から二つ程度を選択して取り上げ、その問題領域の範囲の中で自己とのかかわりに着目して課題を設け追求させることになる。その際、生徒の興味・関心や生活経験を生かして課題が設けられるよう、教師の適切な指導や助言が必要となる。    

 なお、課題を設け追求させる学習指導については、一定の方法があるわけではないが、一般に、@課題の設定、A資料の収集と活用、B課題追求、C課題研究のまとめ、といった手順が考えられる。特に、ポイントとしては、@については、生徒の主体性を尊重しつつ教師の適切な指導を行うこと、Aについては、資料の中から有用な情報を取り出す能力を育てること、Bについては、現代社会の諸問題が生じる背景や問題点について様々な観点からとらえさせること、Cについては、追求の過程や思考過程を論理的に示すことができるようにすることなどが挙げられよう。    

 なお、実際の課題追求に当たっては、学び方の習得を図ることにも配慮し、生徒に課題追求のモデルを示し、課題追求の全体を見通して自らの追求過程をチェックするポイントをもたせることができるようにするなど、指導上の配慮が必要となろう。

 「倫理」において、生徒が主体的に課題を追求する学習をどのように工夫したらよいか。 

  課題を設けて追求する学習を充実させるため、今回の改訂で大項目「(2)現代と倫理」の中に、中項目ウ「現代の諸課題と倫理」が新らしく設けられた。ここでは、「生命又は環境のいずれか」、「家族・地域社会又は情報社会のいずれか」、「世界の様々な文化の理解又は人類の福祉のいずれか」を、学校や生徒の実態等に応じてそれぞれ選択し、主体的にそれらの倫理的課題を追求する学習を行うこととしている。    

 そのために、まず大項目「(2)現代と倫理」の中項目イ「現代に生きる人間の倫理」において、現代社会を生きる上での倫理的課題について検討し、倫理的な見方や考え方の基礎を身に付けさせ、それを基にウにおいて上記のような事柄について選択し、それにかかわる倫理的な課題について具体的に追求していく学習を求めている。

  このように、具体的事柄にかかわる倫理的な課題を選択し主体的に追求する学習を通じて、自らの人間としての在り方生き方に資する人生観・世界観ないし価値観の形成を促すことができるよう、学び方を身に付けさせるとともに、様々な指導方法や指導形態を一層工夫する必要がある。

 「政治・経済」において、現代社会の諸課題を追求する学習の充実をどう図ったらよいか。 

  今回の改訂では、課題を設けて追求する学習を充実させるために、大項目「(3)現代社会の諸課題」が新設された。課題を追求するに当たっては、諸課題を網羅的に取り上げることは避け、地域や学校、生徒の実態等に応じて、ア「現代日本の政治や経済の諸問題」及びイ「国際社会の政治や経済の諸課題」のそれぞれにおいて課題を選択して追求させることとしている。    
 アに例示されている諸課題には、「大きな政府と小さな政府」、「少子高齢化社会と社会保障」、「住民生活と地方自治」、「情報化の進展と市民生活」、「労使関係と労働市場」、「産業構造の変化と中小企業」、「消費者問題と消費者保護」「公害防止と環境保全」、「農業と食料問題」の九つがあり、イに例示されている諸課題には、「地球環境問題」、「核兵器と軍縮」、「国際経済格差の是正と国際協力」、「経済摩擦と外交」、「人種・民族問題」、「国際社会における日本の立場と役割」の六つがあるが、そのうちから幾つかを選択して課題を追求することが求められている。    

 この課題追求をしっかり行い、十分な成果を上げるためには、政治や経済の学習で学んだ基本的な概念や理論を活用して諸課題を分析し、問題点を把握させることが必要である。そして、望ましい解決の在り方を追求させることになるが、ここで留意しなければならないのは、現実の社会では様々な見方やいろいろな立場に立った考え方があることである。そのため、現代社会の諸課題をとらえる代表的な考え方、あるいは対照的な考え方を対比させながら考察させるなど、公正な判断力を養うための工夫が必要となるのである。

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