平成13年度 岐阜県高等学校教育課程研究集会(数学部会)発表要綱
 
生徒の実態に応じた指導について
岐阜県立岐阜三田高等学校  
 
1.本校の概要と生徒の実態
 
本校は、昭和58年に開校し、今年で19年目、来年開校20周年を迎える比較的新しい学校である。学校の規模は各学年とも、商業科3クラス・情報処理科1クラス・ファッション科3クスの1学年7クラスである。商業科と情報処理科は岐阜市および山県郡内の生徒が中心で、ファッション科は、県内にファッション科が1つしかないこともあり、岐阜市・山県郡内の生徒をはじめ、県内各地から入学してきている。
ファッション科はほとんどが女子生徒であり、商業科・情報処理科も女子生徒が過半数を占め、学校全体の女子生徒の占める割合は79.5%である。また、卒業後の進路は就職が40.7%、進学が51.3%で進学率も年々増加はしてきているが、数学を受験に必要とする生徒は、看護学校希望者がほとんどで、6名ほどである。
商業科・情報処理科とファッション科では学習する内容もずいぶん違うが、生徒の意識や興味・関心もずいぶん違っている。また、同じ科の中でも入学時の学力成績等をみても非常に学力差が大きく、中学校で学習した内容はほとんど理解しているという生徒から、基礎的な計算力も劣るという生徒までいる。学習意欲もまちまちで、非常に意欲が高く自ら進んで学習をする生徒もいるが、一時間の授業に集中できない生徒もいる。このような状況の中では、一斉授業のみで指導をするのは難しくなってきている。
 
2.テーマ設定の理由
 
平成9年度入学生まで1、2年生で数学T5単位を学習してきたが、平成10年度入学生より1、2年生で4単位を学習している(商業科・情報処理科・ファッション科とも)。単位数の減少により、指導内容を吟味しその都度修正してきた。生徒の実態に応じた指導、個々に応じた指導、生徒の必要に応じた指導をしようということで、平成11年度から本年まで3年間、情報処理科(1クラス)を2分割して指導してきた。現在の指導の在り方の良い点や悪い点を検討し、再考したいと思い、次の3点について考えることにした。
(1) 数学A 数と式の扱いについて
(2) 学力差のある生徒に対する指導について
(3) 生徒の必要に応じた指導内容について(情報処理科)
 
3.研究内容 
 
(1) 数学A「数と式」の扱いについて
本校では、平成9年度まで1年生のはじめ、夏休み前まで数学Aの数と式を学習させてきた。しかし、平成10年度から1単位減ったため、それまでのような数と式の履修が難しくなった。年々計算力の低下を感じていたので非常に大きな不安があったが、必要に応じて学習させることとし、4月から2次関数を学習することにした。その結果、計算でつまづく生徒が増加し、それぞれの単元の学習の中で数と式の範囲を学習する結果となった。
実際に2次関数の学習の途中で数と式の内容を必要に応じて学習したところ、展開・因数分解の練習にずいぶん時間がかかった。また2次方程式を解く練習をしているうちに2次方程式を解くことが目的となり、その解の意味することが薄れてしまうことがあった。また平方根については、2次方程式・2次不等式の解法を学習するときに平方根の性質について話をし、実際の平方根の計算についてはその1年後の三角比で扱うことになってしまった。ポツポツと細切れで話を展開することになったため、繰り返し同じことの説明が必要となり、必要以上に時間がかかって授業を展開していくことになってしまった。
また、生徒の意識調査により、中学校での関数という単元については、過半数の生徒が「苦手」意識をもっていることがわかった。高校に入学して一番初めに学習する単元が関数であることにずいぶん抵抗をもつ生徒がいることも感じた。ましてや本校では、1年次に関数と集合のみを履修することになり、1年間をほとんど関数の学習で終わることから、4月当初の抵抗感が「数学は苦手である」という意識につながることも危惧された。
以上のようなことから、昨年度から、4月から6月上旬の中間考査までの間、数と式のなかで2次関数や三角比で必要となる部分を学習し、その後2次関数の学習に入るという指導計画をたて、実践している。
 
(2) 学力差のある生徒に対する指導について
生徒の学力差は年々開いてきているように思われる。生徒の中には、意欲の低下から1対1の指導でないと学習に取り組むことのできないものもいる。このような生徒に対応をするために、問題演習を多く取り入れ、その時間を利用して机間指導を行ない、1時間内により多くの生徒を1対1で指導する時間を設けている。単元ごとに得意・不得意があるため、個別指導を必要とする生徒も単元ごとで少しずつ違う。それらの生徒の把握のために、小テストをはじめた。自分の実力が点数化されて目に見えることから、上位の生徒はより上を目指し、中位および下位の生徒も、テストに対し努力する姿がみられた。個別指導は下位の生徒の中で努力しない(努力できない)生徒を中心に進めている。
取り組みの早い生徒と遅い生徒の差も非常に大きい。遅い生徒に対して個別指導をしていると、早い生徒は次に何をしていいのか分からず、無駄に時間を過ごすことになりがちである。そこでプリント学習を取り入れ、早く終わった生徒からプリントを完成するように指導している。プリントの提出については、全員が提出しなければならないプリントと、完成した人のみ提出すればよいプリントの2通りを用意し取り組ませている。プリントの取り組みも、意識の違いから、やりなさいというだけではやらない生徒が多くいたため、後者のプリントは提出したら成績に「プラス点」を与えるという形式で取り組ませている。
 
(3) 生徒の必要に応じた指導内容について
前述したように、本校では情報処理科において1クラスを2分割して授業を行なっている。分割授業を行なうことを決定する際、できるだけ生徒の必要に応じた指導をしようということで商業科の先生方に相談をした。そこでの回答は「進数と指数・対数に苦労している」というものだった。本校では、情報処理科でも4単位しか履修せず、3年生では数学は履修しない。ましてや数学Uの範囲である指数・対数関数はこれまで履修してこなかった。
それを受け、数学科として何ができるかと相談したところ、情報処理科は、他の学科に比べると授業進度も速く少し余裕がある、ということから、数学Uの範囲の「指数・対数関数」を取り入れることができるのではないか、という結論に達した。ただし、全員には必要ないという判断から、生徒には4月当初に説明をし、生徒自身に選択をさせることにした。また、どこで学習するのが効果的か、などを商業科の先生と相談の上、指導計画を作成し、実践している。
 
4.反省と今後の課題
 
(1) 数Aの扱いについて
高校に入学してすぐに関数という単元に入るよりは、計算で少し自信をつけさせることができてよかったのではないか。また、ただの計算練習としてではなく、2次関数の学習の基礎として捉えている生徒が少数おり、うれしく思う。しかし、やらなくてもよかったと感じている生徒がいることも事実であるので、これを真摯に受け止め、今後生徒にどうアプローチしていくのか、どう意識付けしていくのか考えていかなければならないと考える。
 
(2) 学力差のある生徒に対する指導について
プリントのプラス点については、8割強の生徒が肯定的であるのに対し、2割弱の生徒が否定的であった。プラス点のメリット・デメリットを今後も検討していかねばならないと思うと同時に、プラス点がなくとも生徒が意欲的に取り組むことのできる授業および問題演習を展開できるよう努力していきたい。個別指導は今後も必要だと思われるので、続けていきたい。小テストも、意欲向上および個別指導が必要な生徒の把握に役立ったので続けさせていきたい。
 
(3) 生徒の必要に応じた指導内容について
実際に「n進数」、「指数・対数関数」を授業で扱ってきたが、生徒の中にはそれが情報処理の学習に役立ったと感じている者は少ない。その理由を探ってみると、数学におけるn進数が分かるだけでは情報処理の問題が解けないという現状がある。また、指数・対数関数については対数を必要とするところまで生徒の実力が伴なっていないところがある。
今回、情報処理の問題の中でn進数に関わる問題を実際に解いてみたが、数学の知識のみでは解くことのできない問題が多く、情報処理の担当の先生に説明を受け、やっとのことで解けたというのが本音である。
数学としてのn進数や対数を学習しているだけでは、情報処理の授業に直に生かせる授業にはならないことを痛感した。しかし、数学的な知識があれば、情報処理の問題も理解しやすいことがわかったし、logという記号がでてきたときに、見たことがないのと見たことがあるのではずいぶん違うのではないかと考える。情報処理の問題を解くのに、すぐに役に立つ授業はできないかも知れないが、数学的な考え方ができ、理解の手助けになるよう今後も取り組んでいきたい。また、情報処理の資格試験に出題される数学に関係する問題を、n進数以外でも調べ、数学の授業の中で取り上げていきたい。