平成13年度 岐阜県高等学校教育課程研究集会(数学部会)発表要綱
専門高校の数学(商業科目との関連について)
岐阜県立大垣商業高等学校
1.本校の概要
本校は、明治35年に創立されて今年で99年の歴史と伝統をもつ県下最古の商業学校である。下記にあげる学科をもち、各学科とも簿記・情報処理等の資格・検定取得に力を入れ、部活動とともに非常に高い成果を上げている。また、進路概況は、就職,進学が約半々(平成12年度は進学が54%)である。生徒数は、1,027人(男子333人,女子694人)で学年9クラスある。ただし、平成13年度入学定員は8クラスとなっている。
(1) 学科および履修科目単位数 1学年(平成13年度入学)
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経営科
(1) |
情報ビジネス科 (2) |
情報処理科 (1) |
経理科
進学 (1) |
経理科 (2) |
国際ビジネス科 (1) |
1年 |
数学T |
2 |
2 |
2 |
2 |
4 |
2 |
2年
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数学T |
2 |
2 |
2 |
2 |
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2 |
数学A |
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2 |
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3年
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数学A
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*2
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*2
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2
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2
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2
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注:@ 学科の次の ( ) 内の数はクラス数を表す。 A 経理科は、進学類型が1クラス。
B 2・3年は、経営科が2クラス。 C *2は、理科との選択。
(2) 進路状況(平成12年度卒業生)
進 路 |
就 職 |
大学・短大 |
専修各種校 |
自営・その他 |
合 計 |
男 |
女 |
53 |
107 |
55 |
70 |
15 |
46 |
3 |
1 |
126 |
224 |
合計
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160
|
125
|
61
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4
|
350
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2.本校の生徒の実態
数学科から見た生徒の実態は、次のものが上げられる。
(1) クラス間・クラス内の数学に対する学習意欲・学力の程度の幅が広い。また、1年より2年の方が、学習意欲がない。
(2) 部活動・検定教科の課題の負担が大きく、自宅学習時間は非常に少ない。
(3) 進学者のほとんどの者が、受験科目としない。(大部分の生徒が推薦受験である。また、一般受験でも数学の代わりに簿記で受験できるところが多い。)
(4) 数学への興味・関心が乏しく、考えることや面倒なことを嫌がり、パターン化したものを丸暗記しようとする傾向が強い。
(5) なんでも電卓を使う。生徒が使い馴れた電卓(簿記等の商業科目の必須用具)に依存する割合が大きい。[例]・組み合わせ(C)の計算(約分をしない)・確率の小数表現等
(6) 2単位分割履修が多く授業効率が低い。そのため生徒の学力の定着も悪い。
3.テーマ設定の理由
商業高校独自の研究として、商業科目と数学との関わり方を調べた。その中でも情報処理技術者試験の内容に数学の分野が出題されているものを調べることにした。昨年度の1月に情報処理技術者試験に向けてより多くの生徒が合格できるようプロジェクトが立ち上がった。このプロジェクトチームの一員として授業や補習で取り組んできたが、もう一度どのような問題が出題されているか整理し、数学のどの分野が必要なのかを再点検しようと考え、このテーマを設定した。
1.研究内容
<情報処理技術者試験>本校の場合、主に基本情報技術者試験と初級システムアドミニストレータ試験を受験し、その内容等は以下に示します。
基本情報技術者試験(EF) *H12年度まで第二種情報処理技術者試験(二種)
1.試験形式と試験時間 (電卓使用可)
午前 |
午後 |
9:30〜12:00(150分) |
13:00〜15:30(150分) |
多肢選択式(80問必須)
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多肢選択式(13問出題/7問解答)
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2.試験実施時期と合格率
1) 試験実施時期 春期(4月第3日曜日) 秋期(10月第3日曜日)
2) 合格率 16.2%(H6秋期〜H12秋期)
<平成12年度 秋期 第二種情報処理技術者試験より>
問3 8進数で5けたのすべての自然数を2進数で表現するには、少なくとも何けた必要か。
ア 5 イ 10 ウ 15 エ 20
<ウ>
問70 4人を無作為に選んだとき、生まれ月が同じ人のいる確率はおよそいくらか。ここで、月ごとの出生率は等しいものとする。
ア 0.25 イ 0.43 ウ 0.57 エ 0.62
<イ>
問71 標準偏差に関する記述のうち、適切なものはどれか。
ア すべてのデータに定数aを加えたものの標準偏差は、元の標準偏差にaを加えたものになる。
イ すべてのデータに定数aを加えたものの標準偏差は、元の標準偏差のa倍になる。
ウ すべてのデータに定数2倍したものの標準偏差は、元の標準偏差の1/2になる。
エ すべてのデータに定数2倍したものの標準偏差は、元の標準偏差の2倍になる。
<エ>
<平成12年度 春期 第二種情報処理技術者試験より>
問1 次の五つのデータがある。分散は幾らか。
3,2,7,7,6
ア 2.1 イ 2.3 ウ 2.4 エ 4.4
<エ>
問2 1〜100までの整数がランダムに発生する。その数が3の倍数でもなく5の倍数でもない確率は何%か。
ア 41 イ 47 ウ 53 エ 59
<ウ>
問3 すべて同じ値を表している2進数,8進数,10進数,16進数の組み合わせはどれか。
|
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2進数 |
8進数 |
10進数 |
16進数 |
ア |
111 |
10 |
8 |
8 |
イ |
1010 |
12 |
10 |
A |
ウ |
1100100 |
256 |
100 |
64 |
エ
|
11111111
|
377
|
256
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FF
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<イ>
問4 正の2進整数を左に4ビットだけ、けた移動(シフト)した結果は元の数の何倍か。ここで、あふれはないものとする。
ア 0.0625 イ 0.25 ウ 4 エ 16
<エ>
<平成12年度 秋期 初級システムアドミニストレータ試験より>
問10 次のデータの平均、メジアン、モードの大小関係を正しく表しているものはどれか。
[データ] 50,50,50,55,70,75,75
ア 平均 < メジアン < モード イ メジアン < モード < 平均
ウ モード < 平均 < メジアン エ モード < メジアン < 平均
<エ>
問11 男性、女性ともそれぞれ約1000人について、身長と体重を調査した。”男性は身長の高い人ほど体重が重いはずだ。それは女性でも同様だ。”というS氏の主張が正しいかどうかを調べるための適切な指標はどれか。
ア 全員の、身長の平均値と体重の平均値
イ 男女別の、身長と体重の相関係数
ウ 男女別の、身長の平均値と体重の標準偏差
エ 男女別の、身長の平均値と体重の平均値
<イ>
<平成13年度 春期 初級システムアドミニストレータ試験より>
問31 ある企業で、情報処理技術者試験に合格した社員を調べたところ、初級システムアドミニストレータ(AD)は 50人、上級システムアドミニストレータ(SD)は 42人、システム監査技術者(AU)は 30人であった。また、SD の合格者の中に、AU が9人、AD が 11人いて、AU の合格者のなかに AD が5人いた。また、これらすべての試験に合格している者は3人であった。いずれか一つ以上の試験に合格している社員は何人か。
ア 97 イ 100 ウ 103 エ 122
<イ>
*試験問題の数学の範囲について
数学T(集合,順列,組み合わせ,確率,期待値等)、その他の範囲(2進数、指数、対数、標準偏差、分散、相関係数等)である。数Tの範囲については授業で徹底することができるが、その他の分野は、補習で取り上げていくしかない。特に対数(指数)は、けた数の問題(上には取り上げていないが基本情報技術者試験の定番)や情報量とエントロピーを考える基本となるところなので時間(少なくとも数時間)をかける必要がある。2進数、標準偏差等はそれぞれ1時間もあれば十分であろう。
*情報処理技術者試験プロジェクト(H12年度)について
基本情報技術者試験の補習は、1・2年の情報処理科の生徒が参加し、初級シスアド試験の補習は、2年の情報ビジネス科が参加し、人数はいずれも約30人であった。補習時間は平日の放課後2時間、春休みは午前・午後3時間づつ実施した。その結果、今年の4月試験では、基本情報技術者試験(二種)に2名(2・3年1名づつ)、初級シスアド試験に5名の者が合格できた。また、ソフトウェア開発技術者試験(一種)にも1名合格した。
5.まとめ
情報処理技術者試験プロジェクトに参加して、数学の授業面で新たな発見があった。それは、漠然と教科書通りの授業をするのではなく、これらの関連する試験内容などを提示するだけで、生徒の授業に取り組む姿勢がよくなることである。プロジェクトの先生方と連携をとったり、関連する分野を把握することは授業にもよい効果をもたらした。また、この試験に向けて、どの時期にどの分野を数学科として取り上げるか3年間を通した授業(補習も含めた)計画を検討し、確立する必要がある。教科担任が替わってもこの3年間の授業計画があれば効果的に対応できる。
今回は商業科目との関連について(特に情報処理技術者試験の関連)取り組んできたが、その他の取り組みとして、次のものもある。<作業を取り入れた授業>(毎年実施している)・ 数学T 三角比(導入)「校舎の高さを測ろう。」(外でメジャーと分度器で校舎の高さを測量する。),・ 数学T 確率(導入)「コインや画びょうを投げる実験を行おう。」(そのデータより確率とは何かを考えさせる。) 作業を取り入れることによって、授業に参加できる。 また、商業科
目との関連を把握することによって生徒がより興味・関心を持てるようになる。こうした興味・関心を持てる授業ができるようこれからも研究・工夫を続けていく必要がある。