理   科 

1 現行学習指導要領 改訂の趣旨

(新学習指導要領については、現在作成中)


 Q 理科の学習指導要領の改訂に当たっての基本的な考え方は何か。
 

(1) 理科教育においては、観察、実験を重視し、問題解決的な学習や体験的な学習を積極的に推進していくことが求められている。生徒は、それらの活動を通して、「発見する喜び」や「創る喜び」を体得し、さらにこうした中で科学的なものの見方や考え方などの科学的な素養を身に付けていくのである。このような理科教育を展開していくためには理科教育における系統性を損なわないことを配慮しつつ、生徒がじっくりと考えることが可能なゆとりある教育課程を編成することができるようにする。

(2) 生徒の能力・適性、興味・関心等の多様化に伴い、理科の履修においても生徒の実態に応じた弾力的な教育課程の編成、内容の取扱いができるようにすることが必要である。このため、国民として必要とされる基礎的・基本的な内容については、全ての生徒に何らかの形で履修させるように配慮した上で、履修科目の選択幅を広げるようにする。さらに、一部の科目については、内容を部分的に選択して履修させることができるようにする。

(3) 最近の自然科学と科学技術のめざましい発展、進歩に伴う成果を直接あるいは間接的に理科教育に反映させながら、時代の進展に即応できるような柔軟な思考力や、新しい進歩を生み出す創造的な能力が育成できるように内容を構成する。
 
2 目標の改善 


 Q 理科の目標において、どのような改善が行われたのか。
 

(1) 目的意識をもって実験、観察などを行うことにより、知的好奇心や探求心を喚起し、自ら学ぶ意欲を高め、自然を主体的に学習しようとする態度を育てること。特に、探究的な学習をより一層重視する観点から、従前の理科の目標になかった、「探求心」を高めという言葉を入れたこと。

(2) 実験、観察を通して探究活動を行い、科学的に自然を調べる方法を身に付けるなど、探究する能力と態度を育てるとともに、問題解決能力を養うこと。

(3) 自然にかかわる基礎的・基本的な学習を通して、自然の事物・現象にみられる原理・法則等を理解し、自然の仕組みや働きについて分析的かつ総合的に考察する能力を養い、さらに進んで科学的な自然観を育成すること。

(4) 多様な自然現象について客観的に考察して 合理的に思考する能力を育成するとともに、科学や自然と人間とのかかわりの視点に立ち、自然を総合的にみる見方や科学的なものの見方を育成することを重視すること。


 Q 「Tを付した科目」と「Uを付した科目」の目標はどう変わったか。
 

◇ 自然現象に対して興味・関心を高め、疑問点を主体的に見いだそうとする意欲をもたせることをねらいとして、「Tを付した科目」の目標は、従前の「TB付した科目」の目標に「自然に対する関心や探求心を高め」という言葉を入れたこと。また、「Uを付した科目」の目標にも、従前の目標になかった「然に対する関心や探求心を高め」という言葉を入れたこと。

 
3 科目編成の改善の要点



 Q 科目の編成と履修については、どのようになったのか。
 

(1) 科目の編成
ア 科目の構成を以下のように改める。
従   前 改   訂
科 目 名 標準単位数 科 目 名 標準単位数
総合理科
物理TA
物理TB
物理U
化学TA
化学TB
化学U
生物TA
生物TB
生物U
地学TA
地学TB
地学U












理科基礎
理科総合A
理科総合B
物理T
物理U
化学T
化学U
生物T
生物U
地学T
地学U

 












 

イ 新しい科目として「理科基礎」を設ける。この科目では、科学と人間生活とのかかわりを学ぶとともに、科学を発展させてきた物質の成り立ちの探究、細胞の発見や進化論、エネルギーの考え方の確立の過程、地動説やプレートテクトニクスなどを取り上げ、科学に対する興味・関心を高めることができるようにする。

ウ 自然を総合的にみる見方を育成するため、従前の「総合理科」及び「TAを付した科目」の内容の一部を統合し、「理科総合A」「理科総合B」を新設する。
  「理科総合A」では、エネルギーと物質の成り立ちを中心として、自然の探究の仕方、資源・エネルギーと人間生活、物質と人間生活、科学技術の進歩と人間生活について、また、「理科総合B」では、生物とそれを取り巻く環境を中心として、自然の探究の仕方、生命と地球の移り変わり、多様な生物と自然のつり合い、人間の活動と地球環境の変化について、それぞれ観察、実験などを通して学習する。

エ 従前の「TBを付した科目」「Uを付した科目」のうち、より基本的な内容で構成し、観察、実験、探究活動などを行い、基本的な概念や探究方法を学習する科目として「物理T」「化学T」「生物T」「地学T」を設ける。
@ 「Tを付した科目」は親しみやすい基本的な内容で構成し、生徒が幅広く履修できるようにする。
A 「Tを付した科目」には、従前の「TBを付した科目」と同様、探究活動を位置付け、探究的な学習の推進を図ることとする。

オ 上記の科目を基礎として、より発展的な概念や探究方法を学習する科目として「物理U」「化学U」「生物U」「地学U」を設ける。
@ 生徒の興味・関心等に応じ、「Uを付した科目」まで選択した場合には従前同様に発展的な内容を学習できるようにする。
A 「Uを付した科目」には、従前同様課題研究を位置付け、問題解決能力の育成を図ることとする。
B 「Uを付した科目」では、項目選択を可能とし、生徒の興味・関心等に応じた学習ができるようにする。

カ 今回の改訂で、中学校から高等学校に統合される内容については、基本的に「理科総合A」「理科総合B」及び「Tを付した科目」等で統合して扱うようにする。

(中学校からの移行内容の統合)
位置付ける科目 中学校からの移行内容
理科総合A・物理T
 
仕事と仕事率、電力量
水の加熱と熱量
理科総合A・化学T 電気分解とイオン
理科総合B・生物T 遺伝の規則性
理科総合B・地学T
 
地球上の生物の生存要因、地球の表面の様子
惑星の表面の様子、大地の変化の一部
日本の天気の特徴
物理T
 
比熱、水圧、浮力、力とばねの伸び
質量と重さの違い、力の合成と分解
直流と交流、真空放電
化学T  中和反応の量的関係、電池
地学T  月の表面の様子、外惑星の視運動
理科総合B・生物U  生物の進化、花の咲かない植物、無脊椎動物

キ 自然に対する知的好奇心や探求心を高め、自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付けさせるため、各科目の大項目の内容等に観察、実験を通して探究し学習することを示し、観察、実験を一層重視する。また、前述したように、観察、実験などを通して、科学の方法を習得させ、問題解決能力が育成されるよう、従前同様「Tを付した科目」に「探究活動」を、「Uを付した科目」に「課題研究」をそれぞれの内容の一部として位置付ける。

(2) 科目の履修
@ すべての生徒が履修すべき科目(必履修科目)については、「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」「物理T」「化学T」「生物T」「地学T」のうち2科目とするが、より幅広く基礎的な理科の能力が身に付くよう、この2科目中に「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」から少なくとも1科目以上を含むものとする。
A 「物理U」「化学U」「生物U」「地学U」については、原則として、それぞれに対応する「Tを付した科目」を履修した後に履修させるものとする。これは、「Uを付した科目」の内容が、「Tを付した科目」の内容を更に発展、深化させた内容から構成されているからである。

 
4 各科目の内容



 Q 「理科基礎」のねらいと指導上の課題
 

(1) 「理科基礎」のねらい
@ 中学校理科の学習を踏まえて、科学に対する正しい理解と科学に対する興味・関心を高める。
A 科学の発展の過程を観察、実験などを通して学ぶことにより、科学的なものの見方や考え方を育成させる。
B 科学は完成されたものではなく、未解決の課題があることを認識させるとともに、それが人間生活とどのようにかかわっているのか考察させ、判断力や問題解決能力を育成する。
C 科学の課題とこれからの人間生活について課題を設定して考察したり、その結果を報告書にまとめたり発表を行わせたりして、思考力や表現力を育成する。

(2) 「理科基礎」の指導上の課題
@ 科学の発展の過程を扱う際に、人名や年代の暗記に陥らないよう留意する。科学の発展の過程を観察、実験などを通して学び、科学的なものの見方が大切であることに気付かせるようにする。
A 科学と人間生活とのかかわりについて、自ら課題を設けて調査・研究したり、観察、実験、製作を行い、その結果を考察して、報告書にまとめたり発表するなどを通して、探究する力や思考力、表現力等を育成する。


Q 「理科総合A」「理科総合B」のねらいと指導上の課題は何か。
 

(3) 「理科総合A」のねらい
@ 自然の事物・現象をエネルギーとして物質の変化と変換などでとらえることにより、自然に対する総合的な見方や考え方を養う科目である。エネルギーの考え方と物質の成り立ちを中心とした探究によって自然を認識させる。
A 科学的な素養として必要なエネルギーや物質に関する基礎的・基本的な知識を精選して身に付けさせる。
B 観察、実験などを通して、自然を探究する方法を身に付けさせる。その中には、得られた数値の処理やグラフの表し方など自然を探究する上で必要な基礎的な力も含む。
C 科学技術の進歩と人間生活について、課題を適宜設けて探究させ、事象を探究する力を身に付けさせるとともに、報告書にまとめたり発表を行わせることにより思考力や表現力を育成する。

(4) 「理科総合B」のねらい
@ 生物現象や地球環境にかかわる自然の事物・現象を多様性と共通性、変化と平衡という見方でとらえ、人間と環境のかかわりに関する科学的な問題について考察できる能力や態度を育成する。
A 科学的な素養として必要な、生物とそれを取り巻く環境に関する基礎的・基本的な知識を精選して身に付けさせる。
B 観察、実験などを通して、自然を探究する方法を身に付けさせる。その中には、得られた数値の処理の仕方や野外観察の記録の取り方など、自然を探究する上で必要な力も含まれる。
C 人間の活動と地球環境の変化について、課題を適宜設けて探究させ、事象を探究する力を身に付けさせるとともに、報告書にまとめたり、発表を行わせることにより思考力や表現力を育成する。

(5) 「理科総合A」及び「理科総合B]の指導上の課題
@ 自然を総合的にとらえる力を身に付けさせるため,広い視野に立った有機的、総合的な扱いとする。
A 学習した内容を日常生活と関連付けて考察したり応用する力を身に付けさせる。
B 観察、実験、野外観察、見学、調査など体験的な活動を重視し、自然に対する関心や探究心を高める。


 Q 「Tを付した科目」と「Uを付した科目」のねらいと内容は何か。
 

(6) 「物理T」及び「物理U」
  「物理T」では、日常生活と関連させて物理に関心をもつことができるよう、導入で生活の中の電気を扱うとともに、波、運動とエネルギーに関する基礎的な事項に重点化。
  「物理U」では、先端的な物理学の一端に触れることができるよう、素粒子などを扱う。

(7) 「化学T」及び「化学U」
  「化学T」では、日常生活と関連させて化学に関心をもつことができるよう、導入で物質と人間生活のかかわりを扱うとともに、物質の構成・種類とその変化などに関する基礎 的事項に重点化。
  「化学U」では、化学の応用を重視し、食品と衣料、プラスチック、医薬品、肥料などを扱う.
(8) 「生物T」及び「生物U」
  「生物T」では、「生命の連続性」と「環境と生物の反応」についての基礎的な事項に重点化。
  「生物U」ではタンパク質の機能、遺伝情報とタンパク質の合成、バイオテクノロジーなどの内容も扱う。

(9) 「地学T」及び「地学U」
  「地学T」では、地球の構成、大気・海洋と宇宙の構成についての基礎的事項を地球規模の環境問題を視野に入れながら扱う。
  「地学U」では、気象と海洋の観測法や天体の様々な観測法などの観測技術についても扱う。

 
5 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱いについて



 Q 指導計画の作成と内容の取扱いに当たって配慮する事項は何か。
 

(1) 理科の科目の単位数
ア 「理科基礎」、「理科総合A」「理科総合B」は標準単位数が2単位であるので、これらの科目を必履修科目として履修する際は、その単位数を減じることはできない。
イ 「物理T」「化学T」「生物T」「地学T」については、特に必要がある場合には、必履修として履修する場合であっても、単位数の一部を減ずることができるが、これは、専門教育を主とする学科の特色や多様な生徒の実態等を考慮し、著しく履修が困難な場合など特に必要がある場合に限定されるものである。
ウ 時間をかけて観察、実験などを十分に行い学習効果を高めるための措置として、あるいは「Uを付した科目」についての項目選択をせずすべての項目を学習する場合などに、単位数を増加して配当することが考えられる。

(2) 科目の履修順序
ア 「理科基礎」については、基礎的な必履修科目として履修すること以外に、例えば、将来は理科に関する分野に進む生徒が、科学に対する興味・関心を高めることをねらいとして他の科目を履修した後で又は並行して選択履修することなども考えられる。
イ 「理科総合A」「理科総合B」については、「Tを付した科目」より基礎的・基本的な内容で構成されていることに留意する。
ウ 「Uを付した科目」の履修に当たっては、原則として、「Tを付した科目」を履修した後に履修させるものとする。

(3) 学校設定科目
 学習指導要領で示された11科目以外に学校が独自に理科に属する科目を設定することができるが、その場合は、いずれも理科の目標に基づくことを十分考慮する必要がある。

(4) 内容の取扱い
ア 観察、実験、野外観察、調査などの指導に当たっては、特に事故防止について十分留意するとともに、生命の尊重や自然環境の保全に関する態度の育成に留意すること。また、使用薬品などの管理及び廃棄についても適切な措置を講ずること。
イ 環境問題や科学技術の進歩と人間生活にかかわる内容等については、自然科学的な見地から取り扱うこと。
ウ 各科目の指導に当たっては、観察、実験の過程での情報の収集・検索、計測・制御、結果の集計・処理などにおいて、コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的に活用すること。 


 Q 探究活動、課題研究の扱いは、新教育課程ではどのように変わったか。
 

(1) 探究活動、課題研究の一層の重視
 探究活動、課題研究は現行の学習指導要領でも位置付けられているが、学校での実施状況はまだ不十分であり、新学習指導要領で一層の充実・徹底を図ろうとするものである。
 ここで探究活動と課題研究を整理しておく。両者に共通なことは、
@生徒が主体的に行う活動であること
A探究の方法を身に付けること
B科学的な思考力、判断力、表現力を身に付けること
C問題解決能力を育成すること
である。
 これに加えて、探究活動は
@中項目に位置付けられており、当該大項目の他の各中項目の学習の中で行うか、中項目として独立させて行うこと
A各中項目に示された内容について課題を設け、探究すること
B報告書の作成や発表を行うこと
が特徴である。
 また課題研究は先の共通点に加えて、
@大項目に位置付けられており、課題研究として示された中項目の内容について生徒自身が課題を設定して行うこと
A応用的、発展的、継続的課題を扱うこと
B年間指導計画の中で、適切な時期に研究を行うこと
C研究報告書の作成や研究発表を行うこと
といった特徴をもつ。

(2) 問題解決能力の育成
 問題解決能力については、今回の改訂で高校理科でも重視している。自然の事象に興味 ・関心を高め、その中に問題を見いだし、自ら進んで解決していく学習は、理科で必要な学習である。また、課題研究の内容として「問題解決の能力を身に付けさせる」ことを明記したのはそのためである。問題解決の過程で問題解決能力を培い、科学的な思考力、判断力、表現力を培うことになる。

(3) 表現力の育成
 表現力については、今回の改訂ですべての探究活動、課題研究の内容の取扱いにおいて、「発表を行わせる」という言葉が入った。その理由は、理科の学習において、調べ、探究し、研究した内容をまとめ整理して報告書を作成し、さらにそれを発表することによって表現力を育成することをねらっている。発表して分かってもらうためには、いかに分かりやすく発表するか、まとめ方や整理の仕方の工夫が必要となる。また、発表することは、逆に人の発表をどのように聞けばよいかという聞く力を培うことにもなる。さらに、発表を聞くことによって、他のグループが探究したことを共有することになる。発表するときの留意点としては、
@発表するためには、分かりやすくまとまっている必要がある
Aどのような仮説を設定して、どのように探究してきたかなど探究の経過を分かりやすく説明する
Bどのような根拠に基づいて何が明らかになったかを明確に示す
Cまだ分からないことは何か、さらに生じてきた新たな課題は何かを示す
といったことがある。