環境教育講座資料 教科:音楽
1 題材名 「広がれ歌の輪」 (小学校6年)
2 題材のねらいと環境教育との関連
(1)題材のねらい
・友達と一緒に歌う喜びを味わい、楽しみながら音楽の学習をしようとする意欲を持つことができる。
・曲の気分や情景に合った響きやリズム、強弱などを工夫することができる。
・曲の気分や情景を思い浮かべ、旋律の抑揚を生かして響きのある声で歌える。
・曲の気分を感じ取ったり、情景を想像したりしながら、友達の演奏を聴いたり歌ったりする。
(2)教材観
「おぼろ月夜」は、歌唱共通教材として、小学校6年生の教科書に掲載されている。歌詞の内容には、菜の花畑ののどかな風景にかすみがかった夕暮れ時の美しさと、そこに吹く春風に漂うかすかな菜の花の香りなど、春の季節感が豊かに描かれている。同時に、ここに描かれた情景は、古くから伝わる日本人の心も表していると言える。
その歌詞が、ゆったりとした3拍子の4つのフレーズに載せられている。この4小節のフレーズ感や旋律の抑揚がさらに歌詞を引き立て、叙情豊かな曲に仕上がっている。従って、この曲は、自然の美しさや大切さを感じ取り、環境教育が目指す豊かな感受性をもつ人間に成長するための素地を養う教材と言える。
情景をより豊かに表現するために、歌詞を大切にして発音を明瞭にしたり、情景に合った歌声の響きを創り出したりすることが大切である。また、4つのフレーズの中でも、特に第3フレーズはこの曲の頂点を構成しており、この旋律の抑揚を生かした歌い方(強弱表現)を工夫することで、さらに叙情豊かな表現を味わうことが可能となる。
これらを通して、 環境教育指導資料小学校版(文部省)に述べられる「音楽的な活動を通して、知的にあるいは感性的にものごとを的確に受け入れる認識する能力を育成するとともに、目的や意図、考えに応じて適切に表現できる能力の育成」を目指したいと考えた。そして、このことは、自然の美しさや大切さを感じ、求める心など、環境教育が目指す豊かな感受性や見識をもつ人間を育成するための素地となり得ると考えた。
3 本時のねらい
・自分の経験をもとに、おぼろ月夜の情景に吹く春風を想像し、旋律の抑揚を生かしながら自分の願う春風に合った強弱を工夫して表現することができる。
4 環境教育上の工夫・配慮
本校児童はバス通学者が多い。最近では、塾通いも増え、遊びもファミコンが中心となっている。騒々しい音環境の中で、慌ただしい毎日を送っていると言える。時代の移り変わりとともに、美しいものを美しいと感じる日本人としての心のゆとりがなくなりつつあるようにも感じられる。
音楽の表現活動においても、喜んで表現するが、自分らしく豊かに表現を粘り強く追求していく点で弱さが見られる。そこで、本教材を通して、歌詞の表す情景をじっくりと思い描いたり、それを表現する時に自分らしく表したりするために、以下のような手立てを考えた。
・自分の経験が想起できるようにし、それとつなげて情景を描き、自分なりの表現への願いが持てるようにする。
・歌詞の表す情景を思い描く足がかりとするために、視覚資料(絵)を用いる。また、個々が思い描いた情景を交流し合う中で自分の思い描く情景をさらに深めるようにする。
・自分や仲間の願いや感受が記述できるプリントを準備して書き込みながら進める。また、仲間に自分の表現を伝えたり、仲間の表現のよさを感受したりするために指揮を手立てとして用いる。
5 指導計画 中心教材:「おぼろ月夜」
節
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時
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学 習 内 容
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興味
関心 |
知識
技能 |
態度
行動化 |
環境教育に関するねらい |
1
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1
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「つばさを下さい」の曲の気分を感じ取り、拍の流 れにのって主旋律を歌う。
・範唱CDを聴き、曲の感じや目指したい表現につ いて話し合う中で、この曲の追求の見通しを持つ。
・主旋律の音程をつかんで歌う。 |
○
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旋律の美しさや生き生きとした躍動感を味わう。
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2
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「つばさを下さい」の前半と後半の違いを生かして 歌う。
・色々な音の長さで歌ってみる中で、本時の課題を つかむ。
・前半はなめらか、後半は弾んだ感じが表れるよう に工夫し、交流し合う。
・副次的な旋律の音取りをする。 |
○
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○
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自ら創造的に表現する力を養う。
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2
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3
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「おぼろ月夜」の歌詞の表す情景を想像し、柔らか い響きのある声で歌う。
・曲を聴いて感じたことや思い描いた情景を想像す る。
・自分の経験などを交流し合い、絵などを通してイ メージをふくらませ、自分の願いを持つ。
・旋律の主旋律の音程をつかむ。 |
○
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季節感を感じ取り、情景を想像しながら聴いたり表現したりできる。
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4
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「おぼろ月夜」の旋律を生かしてなめらかに歌い、 フレーズのまとまりを感じながら歌う。
・4つのフレーズのまとまりを感じて歌い、曲の構 成に気付く。
・柔らかく、なめらかな感じが表れるように発声を 工夫したり、音の感じを指揮で表してみたりする。 |
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○
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正しく美しい歌声で表現できる。
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5
本
時
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「おぼろ月夜」の第3フレーズを中心とした旋律の 抑揚を生かした盛り上がりや強弱の工夫をする。
・仲間や教師の指揮で歌う中で強弱を感受し、自分 の表現への願いを持つ。
・指揮を通して、自分の表現を伝えたり仲間の表現 のよさを感受したりする。 |
○
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○
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情景に合った自分らしい豊かな表現を工夫できる。
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3
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6
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「つばさを下さい」「おぼろ月夜」の発声やバラン スを工夫して二部合唱し、本題材のまとめの発表 会をする。
・2曲で学習したことを想起しながら歌う 。
・2声のバランスを工夫しながら、グループで練習 する。
・発表会を通して、お互いの表現のよさを交流し合 い、本題材のまとめをする。
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○
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○
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美しい響きを感じ取って、仲間とともに合唱表現できる。
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6 本時の展開
過程 |
主 な 学 習 活 動
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指 導 上 の 留 意 点
(環境教育上の工夫・配慮) |
導入
展開
終末
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○願いを想起し、自分の描いた情景を思い浮かべながら歌う。
・菜の花畑の広さ、色取り、匂い、そこに吹く風などを想 起し、指揮をしながら歌ってみる。
・数名の代表の子の指揮に合わせて歌う。
○教師の指揮で歌い、表現への見通しを持つ。
ア、はるかぜそよふくそらをみれば
mf< >
イ、はるかぜそよふくそらをみれば
mp< >
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・音環境を大切にする雰囲気づくりをする。
・イメージの広がる視覚資料を 活用する。
・色々な指揮で歌ってみて、どんな感じがしたのか、情景に照らしながら話し合う。
・どんな春風が表したいか経験をもとにして願いが持てるようにする。
(季節感、五感を通して感じたこと、風の強さなどのイメージを深める。) |
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本時の課題 |
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自分の願う春風に合った歌い方(第3フレーズの強弱)を工夫しよう。
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○本時の追求のポイントを明らかにする。
・自分の経験をもとにして想像した風の感じに合った第3フレーズの盛り上がりを中心とした強弱
○個人追求
・自分の願う情景に合った歌い方を色々と試し、それを指揮でどのように伝えるとよいのか考える。
○グループ追求、相互評価
・友達の指揮で歌う中で、他の子が思い描いた春風の情景や、その願いに合った表現のよさを感受する。
・指揮をした子は、願いを述べ、それをグループの子が表現化してくれたかという観点で感想を述べる。
・その指揮で歌ってみた子は、その子の指揮で歌ってみて感じたことを述べる。
・お互いの意見を述べ合いながら進め、仲間の表現のよさに気付き、自分の表現に取り入れながら表現がより豊か
になるように追求する。
○全体合唱
・代表の子の指揮に合わせて歌い、その子の願いに合った表現や追求のよさを実感し合う。
○自己評価
・本時の思い描いた情景に向けて取り組んだ自分の追求を振り返り、プリントを通して自己評価する。 |
・追求の視点をはっきりとさせ、
自分の願いを持って取り組めるようにする。そのために、学習プリントを活用できるように準備する。
・仲間の思い描いた情景や、それに合った表現を豊かに感受
できるようにグループ追求の
場を設定する。また、それを
感受するために、指揮表現を
手立てとして用いる。
・仲間の表現のよさを取り入れながら、自分の思い描いた情景に向かってより豊かな表現の工夫ができ、高まったこと
が実感できるように自己評価カードを活用する。また、その子なりの追求のよさや表現の高まりを願いに照らして教
師が評価する。 |
7
成果と課題
(1)学習内容について
・この曲が作られた時代背景は違うものの、絵や仲間の話をもとにして情景を思い描い
たり、田舎の風景と結びつけたりすることができた。「おぼろ月夜」は、自然の美しさや
大切さを感じ、より豊かな表現を求める心がもてる教材として適切であった。
・本教材を通して、情景を思い描き、自分の願いに向かって表現を追求することの大切
さを実感することができた。また、仲間の感受や表現のよさにも触れ、それを自分に生か
して追求していく姿も見られた。他にも、共通教材として、情景を思い描きやすい教材が
各学年に設定されている。本教材で意図的に実践したことを、他学年においても実践し、発達段階に即して指導していきたい。
(2)指導方法について
・視覚資料や学習プリントを活用しながら情景を思い描くことで、願う表現を明確にもつことが でき、追求に生かすことができた。しかし、視覚資料については、情景を思い浮かべるための 手立てとして有効であるが、イメージに制限を加えることにもなりかねないという反省をもっ た。今後は、音そのものを大切にしながらイメージをふくらませることに重点を置いて指導し ていきたい。そして、場に応じた視覚教材の活用方法についてさらに工夫改善しながら実践し ていきたい。
・指揮を通して自分の表現のよさや仲間の表現のよさを感受することができ、より豊かな表現を 求めようとする心が育った。しかし、自分の思いを指揮で十分に伝えられない児童もいた。発 達段階に即し、段階を踏んで指揮で自分の思いを表すことができるように指導していくことの 必要性を感じた。
8 今後の課題
今回の実践では、歌詞や音楽の表す情景の美しさをもとにしながら、知的で感性的な追求活動に重点を置いて取り組んできた。
今後、音楽科として、環境教育で求めていきたいことは、環境に関わる際に感じる「音に対する豊かな感性」を育てることである。そのために、全教育活動を通して、音に対する鋭敏な耳を育てていきたい。例えば、日常生活(学校生活)の中で、否応なしに様々な音が耳に入ってくる。それは、町の雑踏であったり、鳥のさえずりであったり、話し声であったり、テレビから流れてくる音楽であったりする。その何気なく耳に入って来る様々な音にじっくりと耳を傾ることを日頃から心掛けることも、その一つである。また、その中で、自分の気に入った音を選択したり、不必要な音を極力削減したりすることも、実践化の一つとして考えられる。
音楽情報の氾濫するこれからの時代を生きる子供達にとっては、豊かな感性をもとに、音を選択したり、音に対する環境を自分で整えていく能力も必要になって来るであろう。そのために、より豊かな感性をもとに、音に対する自分なりの価値判断できる力を児童一人一人が身に付けることができるように指導していきたい。