音楽授業の環境づくり(研修講座での説明資料)

 音楽科では,豊かな感性の育成を図ろうとする教科の特性から,児童・生徒が意欲的かつ主体的に授業に取り組むことができるよう配慮する必要がある。また,学習内容が演奏技能や知識の習得に偏ることなく,音楽の学習による音楽的感動と,学習を通した教師と児童・生徒の人間的な触れ合いを大切にしていかなければならない。そこで,教師と児童・生徒でつくりだす環境,社会的環境や物理的環境について考えてみたい。

○教師と児童・生徒でつくりだす環境
<音楽授業における教師の行動>
1 言語的行動:指示,質問,発問,説明,助言,励まし,賞賛,評価,板書など
2 非言語的行動:しぐさ,目の動き,顔の表情,間の取り方,範唱,範奏,伴奏,指揮など

<教師と児童・生徒の関係づくり三つの段階>
1 学習行動を引き出すために意図された情報(課題)を明示する段階。
 児童・生徒に学習のめあてを認識させ,それを達成させるための適切な情報を提示する。
 (学習のめあて,資料の提示,範唱,範奏によるモデルの提示,また説明による情報伝達など)

2 児童・生徒の行動を制御し,学習への行動を喚起する段階。
 教師は質問や発問,指示などによって児童・生徒に積極的な働きかけを行う。
3 児童・生徒の行動に対するフィードバックの段階。
 設定した学習のめあてにどれだけ学習者が接近できたかを確認し,その結果に関する情報を知らせる。言語的行動を用いておこなうのが一般的であるが,音楽科においては非言語的行動によって評価する場面も見られる。例えば,合唱の授業場面などで,教師が指揮をしながら演奏を中断することなく児童・生徒に評価を与えることがある。そこでは,声を出して「そう!」とか「もう少し弱く」というように手短にコメントしたり,顔の表情や身ぶりでその評価を示す方法などがあるが,いずれにしても,教師は言語的あるいは非言語的な方法を用いて的確な評価を児童・生徒に与えるよう留意しなければならない。

○社会的環境と物理的環境
<社会的環境>
1 授業参加者の人員構成とその学習集団の中に見られる役割関係
 授業運営の問題がしばしば取り上げられるが,例えば,あたたかく支持的な教師のクラスと,厳格で規律重視の教師のクラスでは,おのずからその授業風景が異なってくる。特に,音楽科においては,うたを歌ったり,楽器を演奏したり,また,直感的反応を働かせたりするなど,児童・生徒が主体的に学習に取り組む場面が授業の中で数多く設定されるため,教師は彼らに不必要な心理的また身体的な緊張感を与えないように注意しながら,積極的に授業に参加できるような環境づくりを心がけなければならない。

<物理的環境>
1 教室の広さ,温度,湿度,明るさ,窓,壁,黒板,机,いす,その他教室の備品(楽譜,楽器,資料)
2 教室の音響環境(教室そのものの音響効果は,やはり音楽演奏の質的側面に少なからず影響を与えるものであるし,視聴覚機器の充実は,豊かな音楽体験を保証する上で重要な役割を果たし得る。)

 情報化社会といわれる状況の中で,ビデオ,CDをはじめLD,MD(ミニ・ディスク)など,新しいメディアが次々と生み出されているが,音楽的な感動体験の機会を児童・生徒に与え学習効果を高めるためにも,これらのメディアの有効な活用が望まれる。また,最近ではコンピュータを導入した音楽教育の実践も試みられているが,ハード面・ソフト面を含めてその普及率は,今後ますます増加するものと思われる。音楽科の目標を達成するためには,綿密な指導計画や学習指導の工夫などが必要であるが,その効果を最大限引き出すためにも施設・設備をはじめ音楽的な教育環境を整備することが大切である。