教育課程審議会答申(平成10年7月29日より) 「音楽」


 ア 改善の基本方針

 小学校,中学校及び高等学校を通じて,次の観点を重視して改善を図る。
(ア)表現及び鑑賞にかかわる幅広い活動を通して,音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育て,音楽活動の基礎的な能力を伸ばし,豊かな情操を養う指導が一層充実して行われるようにする。

(イ)児童生徒が楽しく音楽にかかわり,音楽活動の喜びを得るとともに,生活を明るく豊かにし生涯にわたって音楽に親しむことを促すことを重視し,表現活動及び鑑賞活動の関連を図りつつ,各学校が創意工夫を生かして,児童生徒一人一人が個性的,創造的な学習活動をより活発に行うことができるようにする。

(ウ)各学校段階の特質に応じて,我が国や諸外国の音楽文化についての関心や理解を一層深める表現活動及び鑑賞活動の充実を図るとともに,国歌「君が代」の指導の一層の充実を図る。

イ 改善の具体的事項

<小学校>
 児童一人一人が感性を豊かに働かせながら音楽にかかわり,楽しい音楽経験を得られるようにすることを重視して,次のような改善を図る。
(ア)学校や児童の実態等に応じて弾力的な指導が行われるようにするため,目標と内容を2学年まとめて示す。また,具体的な楽器名を削除し,扱う楽器の選択幅を広げるようにする。

(イ)児童がゆとりをもって音楽活動に取り組むことができるよう,音符,休符及び記号など知識理解に関する内容については全学年を通じて弾力的な取扱いができるようにするとともに,現在,取り扱っているハ長調とイ短調,ヘ長調とニ短調のうち,取扱いが高度になりがちなヘ長調とニ短調の視唱や視奏を削除する。

(ウ)「表現」領域においては,各学年段階の発達に即して,自分の思いを生かした表現活動が一層活発に行われるようにするため,例えば低学年や中学年では,ふし遊びやリズム遊び,様々な音を活用した音楽づくり,高学年では簡単な旋律やリズムをつくって自分なりに表現する活動などの具体的な活動を示すようにする。
 また,高学年においては,合唱や合奏などの表現形態を学校や児童の実態等に応じて選択できるよう配慮する。

(エ)「鑑賞」領域においては,児童が進んで音楽を聴き,音楽のよさや美しさを感じ取り,様々な音楽に親しむ活動が一層充実するようにする。

(オ)表現及び鑑賞の教材については,次の各点に留意して示すこととする。
a 歌唱,器楽,鑑賞の教材について,学校や児童の実態等に応じた弾力的な指導が行われるようにするため,年間に取り扱う曲数は示さないこととする。
b 歌唱共通教材については,日本のよき音楽文化を世代を超えて歌い継ぐようにするため,現行と同様,長い間多くの人々に親しまれてきた文部省唱歌や,各学年の指導内容として適切なものの中から選択して,これを示すこととする。
c 鑑賞教材については,各学校が創意工夫ある指導を進め,学校や児童の実態等に応じて多様な楽曲から選択できるよう共通教材は示さないこととするが,児童が我が国及び諸外国の音楽に一層関心を深め親しむことができるよう教材選択の観点を示すこととする。

(カ)国歌「君が代」は,いずれの学年においても指導することを一層明確に示すこととする。

<中学校>
 生徒が感性を豊かに働かせ個性を生かして楽しく充実した音楽活動を展開し,音楽の喜びを享受できるようにすることを重視して,次のような改善を図る。
(ア)表現活動については,合唱や合奏などの表現形態を学校や生徒の実態等に応じて選択できるようにするとともに,第2学年及び第3学年では歌唱や器楽の小アンサンブルなど,一人一人が興味や関心をもつ学習内容なども選択して学習できるようにする。また,現在は2♯,2♭程度までの楽譜の視唱に慣れさせるとしている読譜指導については,1#,1♭程度の楽譜の視唱に慣れ親しませるようにすることとする。

(イ)生徒の発達段階に応じて,様々な音を用いたり,曲想を工夫するなどの自由な発想を生かした表現活動や鑑賞活動を一層活発に行い,音楽の美しさを感じ取ることができるようにする。

(ウ)歌唱及び鑑賞の教材については,各学校が創意工夫ある指導を進め,地域や学校の実態等を生かした多様な音楽活動が展開できるよう,共通教材は示さないこととするが,これまで歌い継がれ親しまれてきた我が国の歌曲を含めて取り上げられるよう教材選択の観点を示すこととする。

(エ)我が国の伝統的な音楽文化のよさに気付き,尊重しようとする態度を育成する観点から,和楽器などを活用した表現や鑑賞の活動を通して,我が国や郷土の伝統音楽を体験できるようにする。

<高等学校>
 生徒が感性を豊かに働かせ個性を生かし,発展的に学習内容を深めるとともに,生涯にわたって音楽を愛好し表現や鑑賞の活動をしていくための資質や能力を育てるようにすることを重視して,次のような改善を図る。
(ア)「音楽I」においては,現行では「表現」領域の歌唱,器楽,創作のすべての分野と「鑑賞」領域を学習することとしているが,芸術としての音楽を総合的に学習することを基本としつつ,個性に応じて,例えばある楽曲について,歌唱や器楽の表現方法や表現形態を選択して学習できるようにする。

(イ)「音楽II」においては,現行では「表現」領域の歌唱,器楽,創作のいずれかの分野に重点を置いて学習できることとしているが,生徒の特性,地域や学校の実態等を考慮して,「表現」領域の歌唱,器楽,創作のいずれかの分野を選択して学習できるようにする。

(ウ)「音楽III」においては,さらに音楽に親しむため,現行と同様に「表現」領域の歌唱,器楽,創作又は「鑑賞」領域のいずれかを選択して学習できるようにする。

(エ)「音楽II」は「音楽I」を履修した後に,「音楽III」は「音楽II」を履修した後に履修させるようにする。