図画工作科 教育課程 Q&A
 

 「造形遊び」の重視が特に強調されているが、基礎基本を身に付けることは、「表し
 たいものを絵や立体に表す」ことや「つくりたいものをつくる」内容でもできるのでは
 ないか。
 
 
  今回の改訂で造形遊びが重視されたのは、図画工作科の目標の達成状況が、ひじょうに良好である中で、さらに、児童の資質や能力を高めるために掲げられたものです。その背景として、次に示すようなことが考えられます。


 
 
 
 
 
 
 

@ 今の子どもたちは、幼児期から遊びの経験が不足し、人とのかかわりが薄らいでき
 ており、自然や人とふれあい心を育てる教科の本質から重要な役割を担う。
A 現状の図画工作の実施状況調査によると、高学年の発想・構想の力が十分に育って
 いないことから、造形遊びでものの見方や感じ方、発想していく体験を重ねることが
 高学年でも有効である。 
B これまでの図画工作科は、形や色による表現技能を高める作品主義の傾向がまだ根
 強く残っており、作品を多様な見方で評価することが必要である。
 

 

 
 

 

 
  前回の改訂から造形遊びの重要性が定着しつつあるが、遊びの中に造形生から見たねらいを明確にすることと、そして、造形遊びの価値を一層高めるために、どんな力が身に付き、その後の作品づくりにどう生きてはたらいたかを分析する必要があります。
   造形遊びは、教材開発や準備、事後処理に労力を費やしますが、活動によって学ぶことの価値を全教師が共通認識し、意識改革を図っていくことが大切です。
 
 

 図画工作科における基礎基本は、児童自らが獲得するもので、教師が指し示すもので
 はなく弾力的にとらえるとあるが、学年の発達にかかわって身に付けるべきことが系統 
 的にあるのではないか。                          
 
               
  図画工作の基礎基本は、中学校で示されている8つの基礎的能力を観点としてとらえることもできます。学習指導要領及び解説の中では材料や用具については例を挙げられていますが、2学年ごとの発達段階に応じて、具体的にどんな力を身に付けるのかは書かれていません。教師が目標を設定して、それを全児童が身に付けるのではないという考え方に立っているわけです。
  しかし、小学校1年生から6年生まで、確実に成長していくわけですし、児童の発達性を踏まえて何を獲得させなければならないかという発達課題に即した指導目標でなければなりません。次に示すのは、学習指導要領解説美術編著者の遠藤視学官が提案された発達課題と美術教育とのかかわりです。題材の設定や身に付ける力を明らかし、2学年まとめた指導計画作成のためにご利用ください。
  また、学習指導要領解説に示されている「表したいことを絵や立体に表す」内容の基礎基本にかかわる事項を系統的に列挙してみました。
 

 教科書題材を学校や児童の実態に応じて、なぜ工夫・改善していかなければならない 
 のか。                                     
 
 
  小学校の図画工作では、多くの題材を扱っていくために、教科書は題材配列の基準として大きな役割を果たしています。内容や程度が、よりよいものを求めてつくられたものですから、各学年にふさわしいものとなっていますし、活用することは当然です。
  しかし、参考として記載してある作品から、その完成を目指して指導計画を作成することは、必ずしも児童の実態に応じたものといえません。
  例えば、昨年度までの1年生の教科書に、見開きページ「おどろき みんなのたいよう」という題材がありました。ある学校の先生が、「教科書と同じような絵しか作品ができません。どうしたらよいでしょう。」という相談を受けました。例示してある作品で指導し、太陽をモチーフとしてそのまま取り入れたことにより、子どもたちの自由で豊かな発想が妨げ  られ、題材解釈が不十分なためにしばしば起こりうる例です。
  また、地域にある素材を生かした題材や行事や児童の生活と結びつき、学校の創意を生かした題材などを取り入れることも大切なことです。それらを加味して自分自身が題材開発をすることも図画工作ならではの教材研究の楽しさではないでしょうか。
  その題材で何をねらっているのかを明確にした上で、扱う材料、発想するもととなる課題の与え方、モチーフ等を吟味して題材の指導計画を作成し、目の前の子どもたちの実態に合わせて工夫・改善する教科書題材もあるはずです。
 
 

形遊びやつくりたいものをつくる題材では、豊かな発想をし楽しんで活動するが、絵
 に表す題材では、高学年で特に抵抗感が強く、意欲的になれない児童に対してどのよう
 に指導したらよいか。                          
 
 
  高学年になると、子どもたちの意識が内から外へと向かいだし、自分と仲間を比較することによって自己否定したり、見たままにものを描きたいという欲求が強くなってきます。このことは、成長していく過程で思春期の入口を迎えた特徴的な姿とも言えます。
  したがって、自分が満足できるように描く力を付けてやることが必要です。その際、写実的な技能の指導に陥ることなく、一人一人の個性や表現傾向を生かし、自分の「よさ」として自覚できるような評価をすることが大切です。
  また、題材で取り上げた絵に表す対象が、児童にとって興味・関心、意欲の高まるものであり、造形的な価値が高く、多様な表現が期待できるよう配慮されているでしょうか。絵や立体に表すということは、その必然性がなければなりません。すなわち、子どもたちが見たり、体験したり、夢を描いたりする感動が、表現の原動力となり、教師の指導・援助は、い かにしてそれを引き出すかということになります。